《MUMEI》 新上司 【音錬】部屋の奥に目をやると、エレイン達と同じ青い軍服を着た黒髪の男が、窓の外を向いて立っていた。 「君たちかね。中央から左遷させられてきた3人組というのは」 そう言って振り返った男は、見た目は20代後半だろうか。噂通り若い人物だ。夜のように黒い瞳には前髪が掛かり、 その人物を少し、幼くして見せている。 その男こそ、東方司令部司令官である、ロイ・マスタングであった。 若くして大佐という地位に就いた彼には、敵こそ多いものの、その下には有能な部下も多い。 「ここまで噂がきてるんすねぇ……」 「なかなか有名になっているよ。上官に対しての態度がなっていないだとか、口が減らないだとかね」 ロイは微笑しながら3人に告げる。エレインはこれまで起こしてきた事を思い出したのか、「すみません」と呟いた。 「いや、構わないよ。寧ろ、部下はそのぐらいが好ましい」 「どもッス」 ロイは自分の机に戻ると、引き出しの中から大量の書類を取りだした。彼の溜めた書類だろう。それを3等分に分ける と、エレイン達の前へ差し出した。紙面に返事は書かれておらず、空欄である。 「これって……」 「マスタング大佐のっすよね」 「やれと」 一つ一つの言葉に合計3回頷くと、満面の笑みでこう言い放った。 「そうだ! 面倒だからやってくれ!」 唖然。上司とは思えない発言だ。3人は、まさに開いた口がふさがらない状態である。しかし、クラウスは書類の山を まじまじと見ると、開いていた口を一度閉じてこう言った。 「まぁ……この量ならそうだな、2時間で片付きますよ」 クラウスの言葉を聞いた瞬間、ロイの瞳が輝いた。 「本当か!」 クラウスだけではなく、ニコラスとエレインも首を縦に振る。 「こういった仕事なら、僕たち得意なんですよ」 「でも、良いんスか。オレらに任しちゃって」 ニコラスが問うと、またしても上司の言葉とは思えないものが飛んできた。 「バレなければ犯罪ではない。そうだろう?」 予想はしていたが、やはり呆れてしまう。この上司、大丈夫なのだろうか。 前へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |