《MUMEI》
一点の曇りも
柊荘の内館家の扉をノックしてから数秒待つ。目と鼻の先だからと五分袖一枚だけで来てしまい、寒い。

結局、ズルズル延びて訪問は日曜になっていた。七生が晩御飯を食べに家へ来て居間で家族とテレビを見てから帰るのが土曜日までのこと。今日は親に晩御飯を断って七生の家で買ってきたご飯やら持たされたおかずやらを食べるつもりだ。
家主にはいつ来てもいいと許可を貰っているから自由な時間に来たけど、バタバタ足音が聞こえる。七生が物を押し退け近付いて来た。


「……入って!」

息が荒い。道幅を広げる為に物が山積んである。溜息を吐きつつ安心してしまう。身構えてたし。
呼ぶくせに掃除をしないのは彼らしい。


「ペットボトルの蓋も分別して。」

七生と自動的に掃除に取り掛かる。窓が全開で寒い。
肩に何か掛かる。見たら七生が着ていた上着だった。

「マフラーは?」


「そこまでは必要ないよ。うん、でもあったかい。
ありがとうね。」

七生の匂いがする。


綺麗に拭いた机の上でやっと勉強が始められた。少ない会話で集中的に計算問題を解く。


「駄目だ、10分したら起こして!」

20分経ったとこで七生が自らの腕の中へ突っ伏して眠った。早い休息だ。
片付けでこき使ったからかもしれない。

風呂には入っているのか、髪はややおかしな方向を示している。寝息は激しくなり、苦しそうに顔を腕から出した。
目をつむっている。静かにしている七生はカッコイイ。も って言わなきゃ怒られるかな。

肩のラインが綺麗。
筋繊維がびっちり詰まっているのだろうか。まだ切れた筋の痕は残っているのだろうか。

机の上の七生を落書きする。顔は描かないでシルエットだけぼんやり……。
上手くはないけど似てない程でもない。



お茶を飲んでたらトイレに行きたくなった。


流した音で起きたのか七生が立っている。


「ごめん起こした?」


七生もトイレなのかこちらへ向かって来る。

「スゲー好きになってきた。」

俺に被さった。七生の中にすっぽり収まる。
起きた途端にお盛んですか……。


「苦しい。」

相変わらず厚い胸板だ。


「ね、俺のこと好きなんでしょ?描いてしまう程に。
いっぱい好きって言ってくれなきゃちゅーするよ?」

七生が無断でノートを見たに違いなかった。
でも、この場合好きって言ってもキスする気がする。唇を欲しがっている鳴き声だもの。


「言わなかったら、どんなキスしてくれるの?」

目を閉じて聞いてみる。なんか、挑発してるみたいだ。

俺ってばインラン……?
期待と不安半分が自分を支配している。

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