《MUMEI》
プロローグ・化石の荒野より
逢魔が時のオレンジ色の輝きが、世界を
支配していた。
その輝きに包まれ無数に連なる砂丘の群れは、まるで刻の静止した海原のようだった。
そんな世界で唯一、刻が流れている事を証すのは、次第に黒く濃さを増していく砂の波が造り出す陰影だけだ。
男が二人、砂上に長い影を曳き、砂の
斜面を上っていた。
長身の男と、中肉中背のがっしりとした体格の男だ。
二人の厚底のブーツの下で、踏み潰される砂粒がきゅっきゅっと音を立て、崩れた砂粒はゆるい風に乗って、斜面を転げ落ちていく。

「では、あれが見つかったと言う報告はまだ無いのだな?」

長身の男が傍らで一緒に斜面を上っているがっしりした男に尋ねた。
がっしりした男はすぐには答えず、相棒がかけた眼鏡の銀縁のフレームの反射光を眩しがるかのように、一瞬眼を細める。
どこか興奮してまくし立てるような長身の男とは対象的に、質問から間を置いて答えた男の口調は感情を殺しているかのように、静かだった。

「ああ....。こんなだだっ広い砂漠の中であれを見つけるのが並大抵で無い事はわかるだろう?」

「あるいは発動と同時に転移したのかも知れない。どこかへ」

「かもな」

「もしもそうだとすると、捜索はますます困難になるぞ」

長身の男は自分自身の考えにのめり込むように、もう答えは聞いてないようだった。
二人が砂丘を上りきると、巨大なすり鉢状の穴が眼下に広がった。

「これは....」

長身の男が呻く。
明らかに自然の力でなし得るとは思えぬ、まるで巨人の手で人工的にならされたかのような穴の底では、無数の人影がうごめいている。

「あれは見つかっていないが、別の面白いモノを見つけた」

がっしりした男がどこから取り出したのか双眼鏡を差し出すと、長身の男の胸に固い感触がぶつかってきた。
その痛みに怒りを覚える間も無く、

「見ろ!」

彼方にある、穴の中心辺りを真っ直ぐ指す指先に誘われるように、長身の男は渡された双眼鏡をのぞきこんでいた。

「何だ....あれは....」

次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫