《MUMEI》
3
しばらくすると、切川琢磨が声をかけた。

「君さあ」

「え?」

「いくつ? 未成年じゃないの?」

(刑事かよ?)

瑠璃子は一瞬ムッとしたが、すぐ笑顔になり、答えた。

「21歳ですよ」

「高校生ってさあ、二十歳と言わずに、たいがい21って答えるんだよね」

「アハハ。あたしは正真正銘の21歳ですよ。あなたは補導員?」

「違うよ」切川は無表情で答えた。

「まさか刑事さん?」

「・・・・・・違うよ」切川は水割りをひと口飲むと、言った。「彼氏と待ち合わせ?」

「一人ですよ」

切川の表情がやや動いた。

「じゃあ、嫌じゃなかったら一緒に飲もうよ。ご馳走するよ」

(やった!)

瑠璃子はグラスを持つと、照れた顔をしてイスから下りた。

「飲むだけですよ」

「わかってるよ」

瑠璃子はわざと警戒心を見せて、切川の隣にすわった。

「君、彼氏いるの?」

「あなたは彼女はいるんですか?」

「いないよ」即答した。「君は?」

「フリーですよ」瑠璃子はすました顔で答えた。

「正直いってさあ。とびきりにかわいいよね」

「嘘」

瑠璃子は思わず笑った。ストレートにルックスを褒められて悪い気はしない。

「わかった。理想が富士山よりも高いんだ?」

「そんなことないですけどね」瑠璃子は照れ隠しにカクテルを飲みほす。「ああ、酔っちゃう」

切川は、バーテンに言った。

「彼女に好きなものを」

「はい」

またバーテンに任せた瑠璃子。美味しそうなカクテルが出てきた。

「あの、あなたのお名前は? あたしは瑠璃子」

「オレは切川琢磨」

「琢磨さん」

瑠璃子はカクテルを飲んだ。

「美味しい」

「瑠璃子。かわいい名前じゃん」

「そうですか?」

「いい体してるよね?」

「えええ?」瑠璃子は笑顔で驚いた。「いきなりそれはセクハラですよ」

「セクハラじゃないよ」

瑠璃子はおなかに手を当てると、赤面した顔で切川を見た。

「女の体をそんな無遠慮に見るもんじゃないですよ」

「そうなの?」

瑠璃子は少し呆れた。

(何こいつ。何か勘違いしているのか、自惚れているのか?)

彼女はカクテルを飲み、次の一手を考えた。一応近づけて、自己紹介も終わった。相手は体を狙っている。すぐにホテルに直行できる軽い女と見られたとしたら心外だ。

しかし、そのヨコシマな気持ちを利用するのも手だ。

「ふう・・・何か酔っちゃた。琢磨さんが変なこと言うから」

「瑠璃子チャン。本当にイイ女だね」

「何も出ませんよ・・・・・・あれ?」

足に力が入らない。急激な睡魔に襲われた。瑠璃子は慌てた。

(まさか、眠り薬?)

しまった、と思ったときには遅かった。彼女はカウンターに頭をぶつけるように突っ伏した。

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