《MUMEI》 9言われた場所に到着。研究室ではなかった。古い倉庫。千香は緊張の面持ちで中に入る。彼女は、パソコンで顔写真を見ているから、切川琢磨の顔を知っていた。 ふてぶてしい無表情。眼鏡の奥から、人をコバカにしたような目で見る。 「君が千香チャン?」 「ええ」 屈強な肉体。強そうだ。スーツ姿の切川は、子分らしき男数人を連れて、千香を歓迎した。 「よく一人で来たね。その勇気には乾杯だね」 「瑠璃子は?」千香が睨む。 「その前に、銃やマイクはここで出しな」 「そんなもんは持ってないわ。丸腰よ」 千香は両手を大きく開いて見せた。 「警察は信用できない。どうせ近くにワゴン車とか止まってて、男の刑事がこの会話を必死に聞いているんでしょ?」 「刑事ドラマの見過ぎよ」千香は笑った。「約束を破ったら瑠璃子が危ないんだから、そんなことはしないわ」 「でもスタンガンとか催涙スプレーは持ってるでしょ?」 「持ってないわ」 「調べてもいい?」 「いいわよ」 千香は軽い気持ちで返事してしまったが、切川はソファにすわると、あっさり言った。 「じゃあ、ここで全部脱いで」 「え?」千香は耳を疑った。 「身体検査だよ。服を全部脱いで全裸になって」 千香は赤面すると、真顔で答えた。 「お断りします」 「じゃあ取引は中止だ」 「待って。男の人の前で全裸になるのは、女にとって耐え難い仕打ちよ」 「取引が中止になって困るのはそっちでしょう。オレは別に困らないよ」 こんな嫌らしい男の手に瑠璃子を預けるわけにはいかない。 「わかったわ。その代わり約束して。絶対に変なことはしないって」 「もちろんだよ」切川は少し笑った。「ただの身体検査だよ。ヤらしい気持ちで言ってるわけじゃない」 千香は唇を噛むと、長袖シャツを脱いだ。脱いだものを切川に渡す。切川は後ろの男に渡す。調べるのはほかの男たちで、切川はじっと千香を見ている。 彼女は仕方なくジーパンを脱ぎ、Tシャツを脱いだ。あっという間にセクシーな水色の下着姿を披露するはめになった。 「いい体してるじゃん」 「身体検査が目的なんでしょ」千香は顔を紅潮させて言った。「下着はいいでしょ?」 「ダメだよ。マイクを隠すとしたら下着でしょう」 (こいつ最低の男だ) 顔をしかめ、溜息を吐くと、千香は胸を隠しながらブラジャーを取って、切川に渡した。ブラジャーはなぜか切川が調べる。千香のブラジャーを弄びながら、切川は彼女のショーツを見る。 「どうしたの?」 「これは許してよ」 「最後の一枚こそいちばん怪しいじゃん」 「勘弁して」 「じゃあ取引は中止だ」 千香は唇を強く結び、切川琢磨を見た。 「容赦ないのね」 「容赦なんかしないよ」 前へ |次へ |
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