《MUMEI》 バター犬 1「いい? あなたがしくじったら、あたしは大ピンチになっちゃうんだから、心してかかってよ」 千香は、若い情報屋の目を真っすぐ見ると、言い聞かせた。 「任せてください」 本当に任せても大丈夫だろうか。今いち頼りない情報屋だ。しかし、一見して鋭い男だと、刑事に見られてしまう。いかにも頼りなさそうな外見のほうが、敵の目を欺くにはいいのかもしれない。 千香はそう思い、情報屋に切川琢磨を尾行させた。 切川は女好きだ。何か悪さをするかもしれない。別件で逮捕し、あとは警視庁の刑事に情報を送り、任せてしまえばいい。とにかく、あんな危険人物を野放しにしてはいけない。 千香の瞳は燃えていた。 夜になると、切川琢磨は一人で出かけた。若い情報屋は尾行を開始する。切川は両手をポケットに突っ込み、ゆっくり歩いていたが、角を曲がる手前で急に早歩きになった。 「あっ」 情報屋は慌てて角を曲がった。細い路地裏。切川の姿がない。彼は額に汗を滲ませ、周囲を見渡した。 「しまった」 しかしそのとき、切川が陰から突如現れ、情報屋を壁に押しやり、喉もとにナイフを突きつけた。 「ストップ、ストップ」 「何さっきから後をつけてんだ?」 「バレてました?」 笑う男にムッとした切川は、ナイフを股間に当てた。 「たんま、たんま!」 「じゃあ言え。テメーは何だ、刑事か?」 「違います」情報屋は震えた。 「じゃあ何だ。言わないとこうだぞ」とナイフを突き上げる。 「イタタタタタ・・・やめてくれ、それだけは!」 「だったら言え」 切川に凄まれ、情報屋はあっさり裏切った。 「実は・・・」 千香の携帯電話に連絡が入った。情報屋からだ。 「もしもし」 『ああ、千香さん』 「何か変化があったの?」 『大アリですよ千香さん。ヤツ、薬の売人もやってました』 「え?」意外だった。そういうイメージがなかった。「よく掴んだわね。さすがだわ」 『では、メモのご用意を。これから取引の時間と場所を教えます』 「そこまでわかったの!」千香は驚くと、急いでメモとペンを出した。「教えて」 彼女は取引の時間と場所をメモすると、言った。 「ヤツを逮捕できたら、お礼をするわ。食事をご馳走しましょうか。もちろん食事だけよ」 千香は笑った。しかし情報屋は罪悪感で体が震えていた。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |