《MUMEI》
2
夜の公園。情報屋が言った通り、切川琢磨は一人でベンチにすわっていた。千香は真後ろに回り、動きを注視する。

しばらくすると、男が一人、切川のベンチの隣にすわり、新聞を広げた。中年の男だ。

「お兄さん、ライター持ってねえか?」

「ありますよ」

切川がライターを渡した瞬間、千香は飛び出していった。

「二人とも動かないで!」

しかし切川は余裕の笑みで落ち着き払っていた。

「あ、刑事さん」

「そのライターを渡しなさい」

グレーのスーツ姿の千香。刑事らしい格好もよく似合うと思い、切川はほくそ笑んだ。

「今度はどんな無実の罪でオレを引っ張ろうと思ってんの?」

「黙りなさい」千香は切川を睨みつけた。

今は裸で手足を縛られているわけではない。弱気になる理由など何もない。舐めてかかったら一発ぶん殴る気で千香は構えていた。

中年の男はライターを千香に渡すと、笑った。

「こんな罠に簡単にひっかかるとはね。お嬢ちゃんはド素人か? ハッハッハ」

「何!」

千香は中年の男を睨んだが、周囲から男がゾロゾロと現れ、千香を囲んだ。

「え?」

罠。まさか情報屋が嘘の情報を教え、裏切ったというのか。男は10人もいる。多勢に無勢。彼女はフットワークで横に飛んで逃げようとしたが、すぐに捕まってしまった。

「放せ・・・あああ!」

押し倒された。両手を押さえられ、両足を広げられた。一人がスタンガンを出すと、何と千香の股に押し当てる。

「バカ、よせ、やめろ、やめろう!」

ブルブルブルブルブル。

「ああああああああああん!」

千香は一発で気を失ってしまった。今度敵の手に落ちたら、ただでは済まないのに。もはや万事休すか。

「イイ女じゃねえか」

「へへへ。たっぷりかわいがってあげよう」

千香の美しい寝顔と、仰向けに倒れている無防備な姿を見て、男たちは想像力を逞しくし、早くも興奮していた。



「あ、もしもし」

千香が連行されたあと、情報屋は瑠璃子に連絡した。

『ああ、どうも』

「すいません。失敗しました。てゆうか、切川に殺すと脅されて・・・」

瑠璃子は胸に手を当てた。

『何があったの?』

「千香さんが、切川一味に連れ去られました。すいません」

『何だって!』

「すいません。殺すとナイフで脅されて、つい・・・その・・・」

今はこの裏切者を責めている暇はない。瑠璃子は低い声で言った。

『あんたは情報屋をやめなさい。でも連絡してくれてありがとう。もう手を引きなさい。あんたにはこの仕事は向いてない』

冷たく電話を切ると、瑠璃子は溜息を吐いた。自分も脅されて屈服したのだ。人のことは責められない。それより千香を早く救出しないと手遅れになる。今度こそ犯されてしまう。急がねばならない。

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