《MUMEI》

がっしりした男....ダイスケは、
先ほどからポーカーフェイスで事の
成り行きを見守っていたが、動揺の色を隠せないドクター・ナカマツと眼が合うと、両の頬をみるみる膨らませた。

ぶふーー!

ついに耐えきれなくなったように吹き出すと、腹を抱え腰を折って大声で笑いだした。

「あははははははは!!まあ、気にするなよ!君はっ!ひーっひひひ!
相変わらず面白いなーーっ!
でもあんまり無茶をしすぎるなよ!」

「はあ....」

笑うとポーカーフェイスの時のクールな印象が一気に崩壊するダイスケに肩を
ぽんぽんと叩かれながら、ドクター・ナカマツは浮かない表情をした。

「修海のやつは君を心配してるのさ」

その言葉を聞いたドクター・ナカマツの表情が、ころりと180度変換するのにはゼロコンマ1秒も要しない。

「なあんだ!そうだったんですかー!」

再び満面笑みになると、待ってください修海さーん!と叫びながら、すでにはるか遠くの夕闇に溶け込みかけている修海の影を追って、一心に駆け出す。

「やれやれ....あー、腹いてえ」

目尻に浮かんだ涙を指先で拭いながら、ダイスケはひとりごちた。
あっという間に距離が離れていく仲間達の姿に慌てる様子もなく、相変わらず
のんびりした調子で歩きだした。
が....その歩調とは裏腹に、ダイスケの表情は次第に引き締まっていた。

足元からドドドドドドドドと地鳴りのような感覚が、歩くにつれてどんどん高まってくる。
ヘルメットで感覚が遮断されていなければ、耐えきれない頭痛に襲われ、これ
以上前へ進む事は出来なかっただろう。

「むっ!」

ダイスケは唸(うな)ると立ち止まった。
目の前の空間が不意に歪むと、タバコの煙のような白い靄(もや)が現れ、小さな竜巻を形成し始めた。
と見る間に、白い靄の竜巻は長い髪をなびかせた女の顔となり、にいっと微笑みながら、次の瞬間には溶け崩れていく。
すると今度はその横にしゃれこうべのようなモノが浮かび上がってきて、
何か話したい事でもあるかのように顎を上下にカクカクと開閉させる。

「想いの残滓(ざんし)というやつか....」

ダイスケがしゃれこうべを手で払いのけると、それは煙になって消えてしまった。
周囲を見回すと、同じような小さな白い渦があちこちで発生し始めている。

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