《MUMEI》

彼らの目的地は、無数の夜間照明の光を浴びて、煌々(こうこう)と照らしあげられていた。
真昼のごとき明るい光の中では、魑魅魍魎のような幻影達も、海上を漂う半透明なクラゲ達に似て、形も定かでない。
踏みしめる大地の感触が変わっていた。
なだらかな丘へと続く斜面を、短い背丈の草原が覆っていた。

「なぜ砂漠の真ん中でこんなものが....」


砂漠の砂と同じ色をした草と、青々とした草がまだらの模様を造って広がっている。
風もないのにそよぐ草原の様は、まるで何者かから草原の役割を演じさせられているかのようだ。

遠い昔二つの大国がどちらが先に月への第一歩を印すのかこだわり争ったように、修海はこの場にいる誰よりも先に
草原の緩(ゆる)い斜面を、急ぎ足で登り始めた。
足元の感触に訝(いぶか)しげな表情を浮かべる修海を目敏(ざと)く捉えたマッドサイエンティストの少年が、我が意を得たり、とばかり早口で告げる。

「砂の色をした草は、混じりっけ無しの『砂』です....」

少年が言うそばから修海の靴の下でサクリと砂の感触を伝えて、砂色の草がボロボロと崩れる。

「そして緑色の草は、原子組成の段階から雑じり気無しの『草』ですよ」

修海は少年の言葉を確かめるように、念入りに靴の下の青々とした草をすりつぶした。
草の汁の匂いを鼻を膨らませ嗅ぐ修海の顔には、恍惚の表情さえ浮かんでいる。

「つまり偽物ではない....という事か....!」

「ええ!混じりっけ無しの『本物』です!」

「これもか?!これもそうなのか?!」

修海は低い丘の上にたどり着くと、そそりたつ巨大なそれと、後ろから登って来る仲間を交互に見ながらまくし立てた。

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