《MUMEI》

『それ』は何ら珍しい光景ではない。
そこに存在するのにふさわしい時と場所で見るのなら....。

どこか品の良さを感じさせる車椅子の
老婦人と、その後ろに寄り添うまだ
あどけないお下げ髪の少女....。
休日の昼間、郊外の自然公園にピクニックにでも来た、祖母と孫とでもいう風情だ。

老婦人は手元にある編みかけのマフラーから、ふと何か別のものに注意を逸らされたかのように、前方を注視している。
棒針が指先から落ちて、それにつながった毛糸が、宙空で針を支えていた。
老婦人の背もたれの後ろからかがみ込み、優しげな笑顔で話しかけようとしている孫娘は、祖母の驚いた顔にもまだ
気がついていない。

少女の白い頬にはうっすらとピンクの色さえ差し....

「まるでこれは....」

これまでの性急さが嘘のように、修海はおそるおそる少女の白い頬に指先を伸ばした。
触れた指先が、微かに暖かな弾力を感じる。
修海は禁断に触れたように、すぐに指先を離していた。

「一時間に五回の心拍数が確認されています....」

後ろから追いついてきたドクター・ナカマツの声が、修海に静かな口調で語りかけてきた。

「彼女達は修海さんの考えるとおり、
間違いなく生きていますよ。
ただし、我々とは異なる宇宙時間の中でですが....」

口調とは裏腹に、ドクター・ナカマツが頭上をおっかなびっくり見上げながら
続ける。

「でもそれも、もうすぐ終わります」

修海は少年の指し示す先を見た。
二人の膝から下は、すでに砂漠と同じ色に変化している。

「そんな....!何という事だ...!」

修海の指先が誘惑に抗しきれないように、再び少女の白い頬に向かって伸びた。
触れる寸前....
指先と少女の頬の間に、青白いプラズマが一瞬スパークし、修海の背中が感電したように痙攣するのを、少年とダイスケは
見た。

次の瞬間、修海は別の景色の中に立っていた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫