《MUMEI》
恋人への文
桜の花弁が散り、綺麗な緑の葉を

つける季節になりましたが、

如何お過ごしでしょうか。

私はいつもと変わらぬ日々です。

最後に会って、もう一年程の時が

過ぎましたね。時の流れは早いものです。

まぁ、病や事故には気をつけて

お過ごし下さいね。

何かあれば、何でも仰ってください。

では……またいつか。

五月一日、夜海 三日月より

朝宮 正世様へ。

「……これで良いかな。」

仄かな明かりのもと、書き終えた手紙。

だけれど、出す事の無い手紙。

「出したところで……」

迷惑になるに決まっている。

だけれど、書いてしまう。

相手からの手紙が来た時は

出せても、全く出せない。

何故かなんて私が知りたい。

恋仲になった今も自分の手紙は

迷惑だと思ってしまう。

それは、ずっと前からの私の悪い癖。

自虐的で神経質。その挙げ句、心配性。

一歩踏み出す事なんて、

告白を了承した時くらいだ。

こうしている間だって、無意識に

あの人は大丈夫かな、だとか……

怪我してないかな、とかを

やっぱり頭の何処かで心配している。

こんな事を本人に知られたとしても

『心配し過ぎですよ』

そう笑って言われる程度かも知れない。

手紙の事だって、本当は

私がそんなに緊張する事では

無いのかも知れない。

だけど、自分の不安が勝ってしまう。

どうしても迷惑だと考えてしまう。

辛くも悲しくもなくても

何故かそう考えると涙が出てしまう……

嗚呼、変わらぬ情けない私だ。

彼は……朝宮さんは、

私なんかで良いのだろうか?

また涙が零れる。

数十分の時間が経過しても、

涙はとまらず、手紙は

涙に濡れていた。

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