《MUMEI》

砂塵の中から飛びだし、2本の丸太のように、斜面を転がり落ちて行くふたりの姿があった。
ふたりは斜面が平地に変わる場所で停止したが、ダイスケはすぐに上体を起こすと上着を首上までたくし上げ、コウモリの翼のように広げる。
修海の上に覆い被さる格好になったその背中に、豪雨のごとく砂粒が打ちつけられ、ダイスケの顔に一瞬苦痛の色が浮かんだ。

そのまま耐えること数十秒。

ようやく霞がかかった景色の中で立ち上がると、上着を脱いではたきながら
ダイスケは修海を見下ろした。

「無事か修海?」

修海は四つん這いになって、砂の中を探りまわっている。

「石が....石が無いんだ」

(まだ、あの場所から帰って来てないのか?)

ダイスケは『まるで川に浸かったように濡れた、自分の靴先』を見下ろした。

修海の肩を掴んだ瞬間、ダイスケも『あの場所』に立っていたのだ。

(あれは一体何だったのだ?)

だがすぐに別の事に注意を逸らされて、
現実と二重写しに見た風景の記憶も念頭から去っていた。

(ドクター・ナカマツが、いない?!)

砂煙に包まれた背後を振り返る。

(まさか、あの土砂の中に?!)

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