《MUMEI》

ぶぇ〜っくしゅ!げほごほ!

10メートルほど離れた場所で砂がもっこり盛り上がると、小柄な人影がむくりと身を起こした。

「先ほどは頭の上を失礼させていただきました!」

ドクター・ナカマツの靴の踵からノズルのような細い管が突きだし、そこからは今だ細く黒い煙が立ち上っている。

「こんな事もあろうかと、ジャンピング・ロケット・シューズを履いていた事が幸いしました。アハハハ」

「フッ!何はともあれ、皆が無事で良かった」

ダイスケはホッと一安心しながら再び
修海に視線を戻す。

相変わらず砂の中を手探りしている相棒の傍らに屈みこんで、おい修海、と肩を揺する手はいつになく優しかった。

修海はようやく夢から覚めたようにはっとなって顔を上げた。

「修海?」

「修海さん?!」

我に帰った修海も、不思議そうに自分の顔を凝視している二人の視線にすぐ気付いた。

頬を生暖かい感触が滑り落ちていくと、
砂地に点々と染みを作っていく。

修海の意思に関わりなく、目尻から涙のようにそれはポロポロとこぼれ落ち続けた。

顎の先から垂れ落ちる液体を修海は掌で受けた。

液体は透明ではなく青みがかった色をしていた。

三人が見守る前で液体の青色が濃くなっていく。

液体は固体へと変化した。

それはあの日に、修海が妹から手渡されたものと瓜二つの青い石....
ブルーサファイア....。

「それは何ですか?修海さん」

修海の肩がピクリと動く、ブルブルと震え始めた。

押さえようとしても押さえられない
慟哭(どうこく)の呻きが、その乾いた血のこびりついた唇から漏れだすのに、
数瞬の刻(とき)も必要としなかった。


「ずっと探してたんだ....あの後
毎日あの川に行って....
あれさえ見つかれば、何もなかったように、妹が取りに帰って来るかも知れない。
そんなあり得ない事さえ考える事まであった.....
もう二度と....
見つからないだろうと思ってたのに」

今、修海の目尻からポロポロとこぼれ出しているのは本物の涙だった。

「修海....」

うおお....と恥じも外聞もなく
咽(むせ)び泣く男の姿に、ダイスケもそれ以上かける言葉を失った。

「見て下さい、二人とも!」

突然ドクター・ナカマツが、砂煙が晴れ、大分視界が良くなってきた丘の上を指差し叫び声を上げた。

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