《MUMEI》
4
小池は25歳だが、童顔なので二十歳の彩と変わらない年齢に見られている。彩も先輩の小池輝正を、「小池君」と呼んでいる。

『もしもし』

「小池君?」

『どうしたの?』

「今から場所言うから急いで来て。海の家で強制わいせつの疑いがあるの」

『海の家? 水着が必要かな?』

「何で捜査するのに水着がいるのよ。メモいい?」

『あ、いいよ』

彩は小池に場所を教えると、電話を切った。

「今刑事が来ますから、少し待っててください」

彩が怖い顔で言うと、男は額の汗を拭った。

「参ったなあ。きょうは厄日だ」

「厄日じゃないですよ。自分が蒔いた種でしょ」

彩は強引に店を閉じさせると、マッサージチェアを一つ一つさわりながら、店内を回った。

「全部でいつくあるの?」

「ここには四つですけど、倉庫にも三つあります」

「・・・あなたの名前は?」

「片瀬です」

「フルネームで答えなさい」

「・・・晴久」

片瀬はどす黒い感情が腹の中で渦巻き、悔しさで胸が焦げた。水着姿の生意気娘。警察官なら年上にも敬語なしか。素っ裸にして手足を縛り、謝罪させたい衝動にかられる。

妄想が広がる。全裸で無抵抗にされても、こんな生意気な口を叩けるだろうか。試してみたい。泣きながら哀願してもエッチな拷問でとことん責めて、困らせてやるのだ。

「片瀬さん」

「あ、はい!」急に呼ばれて片瀬は焦った。

「年はいくつですか?」

「40歳です」

「結婚は?」

「そこまで聞きますか?」

「普通の質問ですよ」

片瀬はやや強気に出た。

「じゃあ、刑事さんも同じ内容を答えてください」

「その必要はありません」彩は片瀬を睨む。

「じゃあ私も答えません」

「捜査に非協力的ということは、やはりあたしに恥をかかせようとしたんですね?」

片瀬は困った顔をすると、小声で答えた。

「独身です」

「バツイチ?」

片瀬は、怖い顔で彩を睨んだ。

「40で独身じゃおかしいですか?」

「おかしいなんて言ってませんよ」

「性犯罪者はみんな独身ですか?」

片瀬の目が危ない。あまり責め過ぎるのも良くない。精神的に追いつめるのは警察官としてあるまじき行為だ。

「あたしはそんなこと思っていません」

「あ、そう」

しばらくすると、小池輝正が到着した。小池が片瀬に警察手帳を見せる。彩は早速本題に入った。

「小池君。あたし、このマッサージチェアにすわったんだけど、刺激が強過ぎるので止めてくださいって頼んだのね。ところがこの男は機械を止めないで、あたしに意地悪をしようとしたのよ」

「誤解ですよ、誤解。全くの誤解だ。なるほど、こうして冤罪はつくられていくのか」

「・・・意地悪って?」

小池の質問に、彩は困った。そんな恥ずかしいことを言葉で説明できるわけがない。

「意地悪は、意地悪よ。だから・・・刺激が強過ぎるから、すぐに止めてほしいのに、意地悪して止めなかった」

「誤解ですよ」

「そういえば課長から強制わいせつって聞いたけど、彩チャンはさわられたの?」

「さわってませんよ」片瀬は目を丸くして即答した。

彩は唇を甘く噛む。

「さわったのは、あの男よ。もういないけど」

「どの男?」

「あたしがマッサージチェアにすわっているときに、あたしのおなかをさわった男がいたのよ」

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