《MUMEI》
5
「その男が強制わいせつの犯人?」

小池が真顔で聞く。彩は困った顔をしながらも説明する。

「違うわ。マッサージチェアにすわってマッサージが始まるとね。両腕両脚を強い力で揉むから、ほとんど無抵抗な状態になるのよ。だからおなかをさわられても交わしようがなくて」

「刑事さんのおなかをさわったんですか?」片瀬が目を丸くする。「ふざけた野郎ですね」

「あのね。若い女が、しかも水着姿で無抵抗にされるの知ってたんでしょ。じゃあそばにいて見ててくれなきゃダメじゃないですか」

正論だ。片瀬は反論できずに下を向く。

「どこ行ってたんですか?」

「ちょっと、トイレに」

「そばにいて見張ってなきゃダメでしょう?」

「はい、その通りです、すいません」

小池は二人の顔を交互に見ていたが、彩に聞いた。

「で、強制わいせつ事件というのは?」

彩は赤面した。鈍感男は困る。詳しく説明するしかない状況だ。でないと話が前に進まない。彼女は意を決して話した。

「つまり、あたしにマッサージチェアを勧めたのはこの人なわけね。で、水着の上からだけど、股もマッサージして、強烈な振動で刺激されて、わかるでしょ?」

「え?」小池は真顔で聞き返した。

「女が股を強く刺激されてるんだよ。こんなマッサージおかしいと思って止めてくださいって頼んだのに、止めなかったのは、あたしを困らせようとしたんでしょ?」

「違います、違います、誤解です」

「あ、わかった!」小池が明るい顔で言った。「電気ヤンマみたいな感じだ。あれはきついよね」

彩は、小学生のとき、男子に電気ヤンマをされて泣かされたことを思い出した。女子に電気ヤンマはやってはいけない。

「とにかく、すぐに止めないのは怪しい」

「なぜすぐに止めなかったんですか?」小池が片瀬に聞いた。

「すぐじゃないけど、止めましたよ」

「嘘よ」彩が睨む。「あたしが警察官だと言ったから止めたんでしょ」

「違いますよ」

確かに証拠はない。しかし、このまま厳重注意で許していいものか。彩はほかのマッサージチェアも調べる必要があると思った。

「あたしがなぜ水着のまま服に着替えなかったかというとね。マッサージチェアを調べようと思ったからよ」

「調べる?」小池と片瀬は同時に言った。

「あたしがほかのマッサージチェアにもすわるから。あなたは機械を操作して。小池君はちゃんと見ててね」

「わかった」

そのために男の刑事を呼んだのだ。何しろマッサージ中は無抵抗だから、1対1では危険過ぎる。でも男の刑事がいてくれたら安心だ。

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