《MUMEI》 5捕まってから何時間経過したのか。部屋に時計がないからわからない。小池も心配だが、今は自分の身を守ることで精一杯だ。 犯人の目的がわからない。散々いたぶって、最後は犯されてしまうのだろうか。それとも、殺す気なのか。 「今、心の中で僕の悪口を言ったでしょう?」 「言ってませんよ」 「絶対に言ったね。変態だと」 「言ってません」 「じゃあ何を考えてた?」 彩は焦った。すぐに答えないと、悪口を言ったことを認めてしまうことになる。 「あ、あの・・・あたしを殺す気ですか?」 「君みたいなかわいい子を殺すわけないじゃん」 「命だけは、取らないでください」 「警察官が犯人に命乞いか?」 彩は、敵を油断させる作戦に切り替えた。 「だって、あたしはもう、あなたに女として負けたわけですから」 片瀬は彩の顔を覗き込む。彩は緊張して身構えた。 「本心からの敗北宣言か?」 「二度もイカされたら、もう負けですよ。女は、嫌いな男には何されても絶対にイカないから」 彩の思いがけないセリフに片瀬は戸惑った。しかし、彩を落としたのは、正式にはマッサージチェアだ。片瀬のテクニックではない。 「さやか」 「はい」 「おなかすいたか?」 チャンスかもしれない。 「はい」 「よし、一緒に食べよう」 片瀬は、彩のセクシーなおなかに手を置くと、上から怖い顔で睨んだ。 「信用して開放するんだよ。もしもヘタなまねしてみな」 「絶対にしません。信じてください」 「くすぐりじゃ済まないよ。手足縛ったまま電気拷問でいたぶるよ」 電気拷問と聞いて彩は腰が引けた。 「いいですよ。あたしは本当に降参したんだから。ヘタなまねなんかしません」 「よーし」 片瀬はリモコンを操作する。彩の手足を押さえていた力が抜ける。彼女は自由の身となった。 「ふう」 ゆっくりマッサージチェアから離れると、両腕で胸を隠し、片瀬に言った。 「トイレは?」 「そこだ。いいよ、ヘタなまねしても」 「しません」 彩は全裸のままトイレに入った。 「どうしたらいい?」 彼女は頭の中を急回転させた。1対1なら何とかなるだろうか。しかし、もしも格闘技の心得があり、凄く強かったらアウトだ。電気拷問は想像を絶する。 ギャーギャー泣き叫んでも許してくれない。そんな図が浮かび、彩は胸がドキドキしてきた。 トイレから出ると、テーブルにはパスタとドリンクが用意されていた。 「お料理上手なんですね」 「婦警チャンのお口に合うかどうか」 「バスタオルを巻いてもいいですか?」 「いいよ」 彩は体にバスタオルを巻くと、しっかり結び、イスにすわった。片瀬もすわる。 「いただきます」 彩は明るく言った。 「おいしい!」 「それは良かった」 「あの、小池刑事は?」 「食わないだろう、意地でも」 「・・・せめて飲み物だけでも」 片瀬はじっと、探るような目で彩を見た。 「君が持っていったら飲むかもしれないね」 彩は急いでパスタを食べ終わると、ウーロン茶を飲みほした。 「ごちそうさま」 素早く皿とグラスを洗い、片付けると、彩は片瀬を友好的な眼差しで見つめた。 「ウーロン茶、持っていってもいいですか?」 「いいよ。できればヘタなまねをしてくれたまえ。ハハハ。そうすれば君を拷問できる」 彩はわざとかわいく唇を尖らせて見せた。 「しません」 前へ |次へ |
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