《MUMEI》
6
彩は入院を勧められたが、大丈夫だと断り、事件の詳細を報告することになった。

まるで取り調べを受けるように、彩一人、増永課長を始め、小池や男の刑事が怖い顔をして迫り、彩の言葉を待つ。

「訴えないってどういうことだ?」

増永課長に睨まれ、彩は赤面しながら小さくなり、俯いた。

「被害者はあたしですし、監禁されて、そりゃあ、酷い目に遭いましたけど、レイプはされなかったから・・・」

「ダメだよ」小池は目を丸くして怒った。「あんな野蛮人は野放しにはできない。逮捕監禁だけでも罪は重いんだ。もちろん強制わいせつも入るし、釈放なんてあり得ない」

しかし彩は唇を噛み、下を向く。どうやら小池の意見にも同意していない。

「何があった?」増永が聞く。

「恥ずかしくて言えません」

「じゃあ、女性刑事を呼ぶか?」

「同性に話すのはもっと恥ずかしいかも」

もじもじする彩に、小池は苛立つように言った。

「さやかチャン。君も警察官なんだよ」

「わかってるわよ、そんなこと」

唇を尖らせる彩がかわいい。増永は目配せした。男の刑事たちは部屋から出ていき、増永と小池だけになった。

「あの倉庫で何があったか。小田には語る責務があるんだよ」

「話したら、きっと怒りますよ、二人とも」

「誰を怒る? 片瀬晴久か?」

「いえ、あたしのことを」そう言って彩はまた俯いた。

「怒らないから言ってごらん」

小池に優しく言われたが、彩は口が堅い。

「絶対に軽蔑します」

「軽蔑なんかするわけないじゃないか」増永が言った。「婦人警官が体を張って犯人を逮捕したんだから」

「絶対に軽蔑しませんか」彩が二人を睨む。

「絶対に軽蔑しない」

彩は仕方なく言った。

「あの、レイプはされてないんですけど、その、何ていうか、三回・・・いや四回か・・・忘れるほど、何度も・・・・・・イカされちゃったんで、告訴できません」

思いがけないセリフに、二人は戸惑った。デリケートな話なので、不用意な男の発言は彼女を傷つける。増永も小池も言葉が出なかった。

「ほら、軽蔑した」

「してない、してない」

彩は真っ赤な顔で話した。

「片瀬に悪徳弁護士がついたら、間違いなくそこの部分を突いてきます。そしたらあたし、法廷で赤っ恥をかくし、婦人警官ということで、ワイドショーの餌食になるかもしれません」

ワイドショーだけではない。インターネットでないことないこと面白おかしく吹聴されたら、社会的に抹殺されかねない。

「・・・じゃあ、どうするの?」小池がやっと言えた。

「片瀬に会わせてくれますか?」

「何を言う?」増永が聞いた。

「二度とこういう悪さをしないと誓願させます」

「さやかチャンの気持ちが通じるかな? あんな心の腐りきった悪党に」

小池の怒りが治まらないのは無理もない。彩が目の前で辱められたのだ。

「もちろん変態だとは思うけど、でも、本当に心が腐りきった野蛮人なら、あたしはレイプされてたと思う」

増永は迷ったが、口を開いた。

「できるか?」

「はい」

「よし、会わせよう」

「ありがとうございます」彩の目が光った。

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