《MUMEI》 1.JAM(続き)レーダーには、何もとらえられてはいない。 雷電が閃(ひらめ)く積乱雲の中では、 もとよりレーダーの効果が弱められるのはセオリーだったが、現在ではレーダーを弾(はじ)き返す反射塗料の発達のために、いっそう当てにならないものと化している。 最終的に実戦でモノを言うのは、パイロットの肉眼だった。 それに旋風には、普通のパイロットでは得られない『ある意味心強い味方』がい る。 ゴールドウィンドが積乱雲の中から飛び出してから数瞬、雲を突き破るようにして、『そいつ』が右方に圧倒的な重量感と共に出現した。 (バトル・スカイ・シップか?!) ゴールドウィンドと並走するように飛行する空中戦艦は、こちらと比べて優に 数十倍はあろう巨大で角ばった船体から、針ネズミのように無数の砲塔を突出させていた。 その黒い船体の腹には『ゴッドアイ』の所属である事を示す、妙にまつ毛の長い片眼のマークが白塗りで印(しる)されている。 「我が艦の左舷(さげん)を飛行中の 機体に告げる。 汝(なんじ)の国籍と所属を明らかにせよ! 30秒以内に返答が無い場合は撃墜する!」 ノイズ混じりの通信が機内に飛び込んでくる。 旋風はバトル・スカイ・シップの無数の 砲塔がおぞましく蠢(うごめ)くと、 威嚇するようにゴールドウィンドに向けピタリと静止する様を見た。 旋風はバイザーの下で好戦的な笑みを浮かべた。 「国籍、所属なし!」 疑似生命プログラムが、まるで命あるもののごとき雄叫びを黄金の鷹に上げさせる。 「確かな事はひとつ!ゴッドアイに刃を向ける者なりっ!」 ゴールドウィンドの右側に展開させた 電磁防壁が、何よりも雄弁な返答であった。 「笑止!」 ノイズの向こうから嘲(あざけ)る声が聞こえた。 バトル・スカイ・シップの船体が チカチカッ!と煌(きら)めくや、 ドウウーーッ! ドウウンンッ!! 次の瞬間、一発、二発、粒子ビームが凄まじい勢いで上下をかすめ過ぎていく。 戦艦の大出力の粒子ビームの直撃を数分浴びれば、ゴールドウィンドとて、 蝋燭(ろうそく)のように溶解する。 辺りの濃密な水蒸気の影響で、粒子ビームの射線は歪んだ曲線を描いていたが、 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるのセオリー通り、ビームは電磁防壁の盾を直撃すると、ゴールドウィンドを空中で横滑りさせた。 「なめるなあああア!!」 旋風は吠えると、ゴールドウィンドを加速させた。 「ギエアアアアアア!!」 黄金の鷹もパイロットと一体化したように吠えると、翼を構成する無数の羽根の間から、それにふさわしく黄金色の光跡を迸(ほとばし)らせた。 凄まじい速度で、バトル・スカイ・シップの前方に弧を描きながら廻りこんでいく。 電磁防壁は確かに粒子ビームに対して 有効だが、その代償に膨大なエネルギーを消費する。 戦いが長引くほどに、こちらが劣勢にならざるを得ない。 勝負を短期で決しないと、こちらに勝ち目は無かった。 (天海のじいさんが積んでくれた新兵器を試す、いい機会だぜ) 旋風は加速のGで、体内の血液が左半身 に集まっていく不快感に耐えながら、 義手で操縦桿の舵をきり、本物のほうの手の指先は、素早く操縦桿の前方にあるパネルの上に走らせる。 その操作に連動して外部ではゴールドウィンドの嘴(くちばし)が開き、 『ガゴン!』 ゆっくりと砲塔がせり出してくる。 操縦席のパネルでは丸い穴が開き、十字スコープがせり上がってきた。 「インプロージョン・サンシャイン! 発射10秒前!!」 旋風はY字型の操縦桿の、右の突端に被された透明なフタを義手の親指ではね上げ、露出したボタンに指をかけた。 次へ |
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