《MUMEI》

「9....8....」

眼前の景色が凄い勢いで横へ流れていく。
ゴールドウィンドの機体が、加速の影響でミシミシと軋み音を発する。

『コオオオオ....!』

嘴から突出した砲塔の先端の数メートル先で、まず小さな光点が生まれた。

光点は見る間に膨(ふく)れあがり、
プラズマの火球となって自転し始める。

サンシャインの名を称するに相応(ふさわ)しく、その様はまるで、太陽のミニチュアがそこに誕生したかのように
暗い空に強烈な光を放った。

「....7....6」

バトル・スカイ・シップの連射する
粒子ビームが、ゴールドウィンドの機体の右を揺さぶりながら走り抜ける。
インプロージョン・サンシャインが発射準備に入った時から、省エネ機能が働き電磁防壁の盾は解除されている。
飛行の為以外すべてのエネルギーが食われるこの新兵器の使用には、現在のエネルギーの残量ではやり直しは効かない。
勝敗は一瞬のタイミングで決っせられる。

「....5....4....」

バトル・スカイ・シップの正面へと廻りこみながら、旋風は知らず知らず唇をなめた。
ゴールド・ウィンドの十字スコープの視界に、敵艦の巨体が飛び込んでくる。

「....3....2....」

次の瞬間、十字スコープのクロス・ゲージが、敵艦の正面中心をロックオンした。

「喰らえっ!」

義手の親指が操縦桿のボタンを押す。

ギュルルルルルル!!

弓から放たれた矢のように、白熱球は
ゆるいカーブを描きながら、空中を突き進み....

敵艦寸前の距離で停まった!!

白熱球を中心にして、蜘蛛の巣状の青いレーザー光の模様が空に浮かび上がっている。

(シールドか?!)

旋風が瞬間、歯噛みした。

それもつかの間、

だが白熱球は回転し続け、易々とシールドを突き破る。

敵艦にぶち当たったと見るや、眩(まばゆ)い白色から暗黒色に変化した。

メキャアアッ!!

不吉な音を、旋風は聴いた。

それは、強力な力がバトル・スカイ・シップに干渉(かんしょう)し、内部の構造材がよじれ、ねじ曲げられた事によって生じた異音だった。

強力な力の源は暗黒色に変化した球体だ。

バトル・スカイ・シップの船体が、

メコリ! という音と共に内側にへこむ。

バキバキという音がして船体が曲がり始める。

暗黒色の球体....いや!それは、穴だ!周囲の全ての物体を吸い込もうとする穴だ!

今、その穴に向かってバトル・スカイ・シップの船体を構成する金属がねじ曲げられ圧縮されながら、引きづりこまれていく。

船体が裂けて、その裂け目から吹き出した爆発の炎と煙さえもがその穴に吸い込まれていく様は、眼前で見ていてさえ、
非現実的な光景であった。

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