《MUMEI》

マイクロ・ブラックホール!!

天海から新兵器の説明を受けた時にしっくりと来なかったものが、使用した結果を目前にして、初めて生々しい実感と共に旋風の中で理解された。

決して地上では使用するな、と天海が
念押しした意味も。

(インプロージョン・サンシャイン..
爆縮する太陽....とは、よく言ったものだ。
確かにこの兵器にはぴったりの呼称じゃないか?)

旋風は皮肉な気分で思った。

宇宙で太陽のような恒星が死の間際、何倍にも膨れ上がって赤色巨星となる。
やがて巨大化しすぎた星は、自重を支えきれなくなり崩壊する。

爆縮である。

例えばビルが最上階から壊れ下の階へと順番に崩れていくとする。
破壊された建物の重さは下へ行くほどに増していくだろう。

そのような崩壊が星の規模で起きた場合、破壊された星の重さは中心核へ行けば行くほどに大きくなる。

それは、強大な重力を生み、光さえも抜け出せぬ宇宙の蟻地獄....ブラックホールになると言われる。

インプロージョン・サンシャイン...

それは、地球上で宇宙のブラックホールのミニチュアを再現する、恐るべき禁断の兵器といえた。

旋風に敵艦を撃滅した爽快さは今や無く、背中を気味の悪い感触の汗が伝い落ちた。

(天海のじいさん、何て恐ろしい兵器を作りやがったんだ....)

一月ほど前に、格納庫で初めて自分の
乗機となるゴールドウィンドを見せられた時の、天海の言葉が旋風の頭をよぎった。

『十代の頃にカモメのジョナサンを読んでな、それ以来、いつか自分も鳥のように空を自由に飛び回りたいという夢が忘れられんでな。
このゴールドウィンドは、少年の頃からの儂の夢の結晶のようなもんじゃ。』

少年のように始めは眼を輝かせていた
老人の顔に、その後、さした翳(かげ)りを思い出す。

『こんな武器を積まずに済む世の中に、
早くなって欲しいもんじゃ....』

『ああ....その為に、一刻も早くゴッドアイを叩き潰さなければな!』

バトル・スカイ・シップは誘爆を引き起こしながら、バキバキメキメキと不吉な音と共に圧縮されていた。

(何だこの胸のモヤモヤは?!
スカッとしない....スカッとしないぜ!)

いざ敵艦を撃破してそんな感情を覚えるとは、旋風自身さえ己が不可解であった。

(俺は何故迷うのだ?殺らなければこちらが殺られるのだ。
そして逆の立場であったなら、敵は容赦なくこちらの命を奪うだろう。
ましてバトル・スカイ・シップと遭遇して撃墜された『プロメテウスの剣』の
戦闘機は膨大な数になる。
新兵器が無ければ、撃墜されたのはむしろこちらの方だったはずだ。
戦いとは残酷なものさ!
勝つ者がいれば負ける者がいる。
時と運により、それはどちらへも転ぶ。
剣を降り下ろせば、斬られた相手は血を流して苦しむのだ。

そんな事はわかっているはずだ?
なのに?
俺は何故迷う?!)

その時、複雑な想いの旋風の眼前で敵艦の一部が分離すると、ロケットエンジンらしきものを点火させて、マイクロ・ブラックホールに吸い込まれつつある母艦から、必死に離脱しよとする姿が見えた。

(脱出挺か....!)

今やバトル・スカイ・シップの船体の
8割方が異空間に姿を没し、ゴールドウィンドの周りの雲さえも暗黒の穴に向かって流れていく。
その雲が穴に吸い込まれながら渦巻く模様は、まるで銀河の模型を見ているかのようだ。

重力場を作り出した張本(ちょうほん)であるゴールドウィンドの機体さえ、 その影響を受けてビリビリと震えている。

バトル・スカイ・シップの船体から離脱した脱出挺は、その重力場の渦中にあった。
渦巻く雲の流れに逆らって飛びながらも、マイクロ・ブラックホールの吸引する重力に押し戻される。
ロケットエンジンを最大限に吹かして穴から離れる....再び押し戻される
....といった行動を、一進一退で繰り返している。

旋風は知らず知らず息を飲んで、その
様子を見守った。

やがて暗黒の穴と脱出挺の距離が徐々に離れて行き、どうやら脱出が成功に終わりそうなのがわかると、こわばっていた肩から力が抜けていった。

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