《MUMEI》

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その十分前。

後に起こる不幸など全く知らず、嵐の雲の中を突き進みながらも、バトル・スカイ・シップのブリッジ内は穏やかな空気に満たされていた。
窓外を荒れ狂うおどろおどろしい稲光の轟きも、頑丈きわまりない装甲の内側に居る者にとっては、ちょとしたショーのように楽しい眺めへと変わる。
稲光に時おり明々と照らしあげられる
薄暗いブリッジ内では、船外の自然が生む荘厳なショーにふさわしく、『ワルキューレの騎行』が重厚に流れていた。

艦長の趣味である。

穏やかとは言っても戦艦の乗組員らしく、底の方では緊張感をはらんだ十人ほどの乗員がいるブリッジ内の一番奥....床がそこだけ一段高くなった艦長席で、その男は席に背を預(あず)け眼を閉じて、何か自分の考えに沈むふうだ。

稲光を反射して、眼がねの細い銀縁のフレームが光った。

艦長は、修海だった。

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