《MUMEI》

「主、起きゆう! 早う起きんと、わしが主の分まで食べ……」

 陸奥守吉行が最後まで言うより早く、“主”と呼ばれた者は、布団から跳ね起きた。彼こそ、この“本丸”の
主、審神者のまさごである。

「わー! 待って、ごめん陸奥守! 起きる、今起きるから!」

 藍で染めた反物の様に、濃い青色の瞳。首筋まで伸ばした黒髪からは、寝癖かどうかも髪が一筋、くるり
と毛先を巻いて飛び出ている。そんな少しうっかりやな彼は、つい2日前に、時の政府の要請で呼び出され、
この地へ来たのだ。初期刀には陸奥守吉行を選び、今は2人で生活している。
 階段を駆け降り、自分より大きな陸奥守の背中を追う。

「ほがな急がんとも、儂は食べんと待っとるきに」
「えー、ほんと? 陸奥守だし、どーかなぁ」

 少し苦笑し、陸奥守の顔を覗き込む。すると陸奥守は悪戯っぽく笑った。

「食うて欲しかったがか?」

 陸奥守の言葉を聞いた瞬間、まさごは慌てて言い直す。

「うそうそうそ! 食べたい!」
「まっはっは! わしも嘘じゃ、すまんかったのう」

 陸奥守が朗らかに笑い飛ばすと、まさごは口を尖らせた。その様子は、まるで年の離れた兄弟の様に見える。
しかし、陸奥守は数百年前の刀。年の離れたどころでもなければ人でもない。
 その事をふと思い出したまさごは、どこか悲しげに笑った。

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