《MUMEI》
9と3/4番線
「……なあ、何番線だっけ」
「9と3/4番線です」
「え、どうやって行くのそれ」

キングズ・クロス駅の9番線と10番線の間で、カートにたくさんの荷物を乗せた状態で途方に暮れる俺達。
すると、少し目を伏せて考えていたらしい賢が柵に向かって歩いていく。
俺達も後を追いかける。

「佐鳥?どうしたの?」
「……ファンタジー小説とかなら」

周りをちらっと見渡してから、とんっと壁に手をつく賢。
すると、賢の腕が肘の辺りまでずぷりと柵を突き抜けた。

「やっぱ当たりか。ここが入り口ですね」
「おおー、さすが狙撃手。するどい観察眼ですなぁ、さとり先輩」
「へへ……ありがとう。さっ、周りに見られないように急ぎましょう」

するんと賢の姿と荷物が柵の向こうに消える。

「俺達も行こうか」
「はいっ」

ぐっと柵を見据えて、真っ直ぐに歩く。
すうっと柵の向こうに体が抜ける。
目の前のプラットホームには、紅色の機関車が停まっていた。

「オレ、もう先に荷物入れちゃいました」
「そうか、分かっ……あ、ハリー!」
「あ、ジュン。久しぶり」

ハリーの黒髪をわしゃわしゃと掻き回す。

「ハリーはもうどこかコンパートメント確保したのか?」
「ううん、見つからなくて」
「オレが今荷物入れたとこあるからそこにしようよ。嵐山さん達も!」

いつものように(A級の殆どが出せる)きらきらとした星の飛んだ笑顔で、賢が提案する。

「そうするよ。ありがとう」
「それじゃこっちのトランク運ぶね」

賢とハリーの後ろ姿を見送って、三雲くんに話しかける。

「三雲くん達はどうするんだ?」
「もう空閑が見つけてくれましたから、そこに荷物入れます」

本部長が穏やかに笑って言った。

「私も三雲くん達の方にいる」
「俺もな」
「了解です!……ていうかナチュラルに置いてこうとするのやめてくれ三輪も充も」
「「……ちっ、バレたか」」

そう呟いてすたすたとコンパートメントへ歩いていく三輪と充を追いかける。

「とっきー……なんで抱きつくのかな?」
「嵐山さんが追いかけてくる」
「うんとっきーが悪いやつだねそれ」

ふわふわと笑ってすこーんっと充の頭にチョップを食らわせる賢が親のように見えて、ついくすっと笑ってしまう。

「なーに笑ってるんですかぁ。嵐山さんもあとでお仕置きですよっ」
「えっ!?ごめ、ごめん……っ、ついっ」
「つい、じゃ済まないんですよー?」

スパァン!!と小気味良い音を立てて頬に平手打ちが飛んできた。
痛みに悶えていると、ハリーが苦笑しているのが見えた。解せぬ。

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