《MUMEI》 ホグワーツへの旅とっきーとオレ、嵐山さんにハリーがいるコンパートメントの戸が開く。 赤毛で背の高い少年がいた。 「ここ空いてる?」 オレの隣を指さした少年が尋ねた。 「他、どこもいっぱいで」 「いいよ。嵐山さん、ちょっと詰めて」 「ん、ああ」 空いたところに置いていた本の山をテーブルに移して、彼が座れる広さにする。 「ありがとう……すごい量だね。好きなの?」 「うん。特に日本の文学は面白いんだ」 「へえ……」 物珍しそうに本の山を見つめる彼。 そういえば名前聞いてない。 「オレ、佐鳥賢。佐鳥って呼んで。で、こっちの無表情が時枝充。このイラつくぐらいの男前が嵐山准。こっちの前髪V字が三輪秀次。それで……」 「僕はハリー・ポッター」 オレの言葉の後を引き継いで、ハリーが自己紹介する。 「ハリー・ポッター!?あの“生き残った男の子”!?」 「う、うん。君は?」 「あ、ごめん……僕はロナルド・ウィーズリー。7人兄弟の6番目なんだ、よろしく。ところで、サトリの読んでる本ってなに?」 いきなり切りこんで来おった…… 若干の動揺を隠して答える。 「これは日本の人の作品で、国木田独歩って文豪が書いたんだ。『武蔵野』っていう作品」 「佐鳥、いっつも暇なときはそれ読んでるよね。飽きないの?」 「好きな作品読んでて飽きるワケないじゃんバカなの」 「あっうん禁句だったごめん」 サラッととっきーの発言をスルーして、ぺらぺらとページを捲る。 「昔の作品だからちょっと難しいけど……分かると面白いんだよ」 「そうなんだ」 目を瞑り情景を思い浮かべながら、作中の一文を読む。 「『武蔵野に散歩する人は、道に迷うことを苦にしてはならない』……素敵な言葉だな、って思うんだ。読んでる内に景色も目に浮かんでくるんだよ」 「どうしよう佐鳥が文学少年になってる」 「とっきー殴るよ?」 「ごめん佐鳥」 嵐山さんが吹き出した。 そんな嵐山さんに肘鉄を食らわせて、積まれた本の山から一冊を抜き出す。 タイトルには“鋼の錬金術師”の文字。英語で書くとFullmetal Alchemist。 かの有名なハガレンの小説版だ。 「……佐鳥ハガレン好きだっけ」 「大好き。一番好きなのはファルマン准尉だなー」 「同意する」 「ハガレン?ファルマン?」 ハリーの困惑した表情。 とっきーが説明する。 「ハガレンっていうのは鋼の錬金術師の略だよ。日本のコミックで、結構人気なんだ」 「錬金術師……」 面白いよ、と鞄からハガレン一巻を取り出して渡す。 ぺらりと捲ったハリーは少しずつハガレンの世界にのめり込んだようで、最終的に「欲しいな……」なんて呟いていた。 前へ |次へ |
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