《MUMEI》
5
「どういうこと?」

一度ならず、二度までも同じ光景を見せられると、本当に編集カットなのかという疑問を抱く。

かといって福三が言うように、犯人は魔法使いなどという結論に達するわけにはいかない。

「とにかく」明が言った。「被害者の女性に協力してもらうしかないわ」

被害者の女性は犯人の顔を見ているし、どうやって裸にされたかを知っている。



事件が起きた場所が場所だけに、ニュースになってしまった。

そうなると、ネットでは憶測も飛び交い、拡散するのが早い。

若い女性が狙われている。

大勢が見ている目の前で全裸にされる。

服を脱がされている間、誰も助けなかったのか。



女性たちは、口には出さないが恐怖におののいた。

もしも自分がそんな目に遭ったら。

考えたくもないし、考えただけで恐ろしい。

大衆の面前で全裸にされ、服も下着も靴まで全部持ち逃げしてしまう犯人。

一糸まとわぬ姿で置き去りにされた女性は、本当にアウトだ。

武人の情けか、バッグは持ち去られていない。

家の鍵などまで持って行かれたら、一人暮らしなら帰宅できなくなってしまう。

金がめあてではないとなると、ただ女性を全裸にして恥をかかせるという愉快犯なのか。



マスコミが騒ぐと、一刻も早く事件を解決しないと警察の威信に関わると、捜査員が一気に増員された。

警察の威信など、被害者からしたらどうでもよいことだが、警察幹部はすぐにこのセリフを吐く。



結菜もこの事件はネットやテレビのニュースで知っていたが、あまり警戒していなかった。

彼女は紺の艶やかな浴衣で池袋駅を歩いていた。

大勢の人が集まる大きな駅。

地方から来た人泣かせのこの駅は、都会育ちでも迷うほどだ。



私服警官も大勢が集まる場所に張っていたが、東京に限定しても多過ぎる。

とても人数が足りない。

この日は新宿歌舞伎町や、東京スカイツリーがある押上駅など、10箇所を張っていたが、池袋にはいなかった。



(きょうも楽しい美女狩りだあ、美女狩り・・・おっと浴衣ギャル発見)

田口は、怪しい笑顔でほくそ笑む。

(浴衣マニアの私の目の前で浴衣姿で歩くということは、犯されてもOKってこと)

でも彼はパジャマニアで、水着マニアで、美脚フェチ。対象の幅が広いのだ。

早速データを見る。

(都倉結菜、19歳。とびきりの美少女ではないか。身長162センチ、スリーサイズは75・58・72。スリムでセクシー)

「そこの浴衣のカーノジョ」

「え?」

「僕と明るいセックスしない?」

罪悪感ゼロを目指してストレートに攻めた。

しかし結菜は、赤面しながらも笑顔で対応。

「ごめんなさい、ちょっと急いでいるものですから」

「おっと、君はもしかしていい子?」やや困る卑劣な犯人。

「さあ、自分ではわかりませんけど」

「僕とお茶しない。君のゴチで」

「えええ?」結菜は明るく笑った。「僕のゴチじゃなくて」

田口は首を左右に振ると、「惜しい!」

「惜しい?」

「罪悪感80%!」いきなり叫びながらポーズを取る男。

「え、何ですか、ざいあく・・・」

田口は本気で残念がっていた。

「善良な市民を毒牙にかけるのは僕のポリシーに反するんだけど、でも君みたいなとびきりの美少女が素っ裸にされて困り果てる姿はどうしても見てみたい」

この言葉に、結菜は初めて青ざめた。

「え、まさか、あなた・・・犯人」

「犯人?」

「あの、女の子を裸にするっていう」

「バレた?」満面笑顔。

結菜は本気で慌てた。

「待ってください、ダメですよ、こんな場所で、困ります」

両手を出して慌てふためく浴衣姿の美少女。絵になる。

「だってさあ、かわいい女の子が大衆の面前で素っ裸にされて、顔がまっかっかになる姿って興奮するんだよね」

「やめてくださいよ、悪趣味にもほどがあります」

しかし田口は欲望を抑えない。

「ちちんぷいぷいスッポンポン!」

「え?」

結菜が着ていた浴衣が消え、彼女は全裸になった。

「きゃああああああああああ!」

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