《MUMEI》 6「あああああ! わあああああ!」 赤面した全裸の結菜がしゃがみ込み、裸の胸を両腕で隠しながら困り果てる姿を、田口は目に焼きつけた。 (かわいい!) 「嘘」 「何あの子」 通行人が気づき始めた。 若い女の子が全裸で困り果てた様子でしゃがみ込み、顔が真っ赤だ。 「助けてください」 「どうしたらいい?」サラリーマンなのか、スーツ姿の男性が結菜に話しかける。 「上着を貸していただけますか?」 「あ、わかった」 紳士な彼は、素早く上着を脱ぎ、彼女に掛けてあげた。 これでひとまず、心ない通行人にスマホで裸を撮影されることは避けられる。 「すいません、警察を呼んでいただけますか」 「わかった」彼は遠慮がちに自分の上着を指差す。「あ、スマホは胸ポケットだ」 「取ってください。ちょっと体に触れたからって騒ぎませんから」 「あ、ああ」 かといって彼女の胸を触るわけにはいかない。触りたいのは山々だが、それでは卑劣な犯人と変わらなくなってしまう。 紳士な彼は、結菜の体に触れないように慎重にスマホを取った。何しろ彼女は全裸なのだから。 警察が来ると、無責任な野次馬は逃げるように散っていった。 オレンジの毛布にくるまれた結菜は救急車に乗せられようとしたが、怪我はないので警察に行きたいと言った。 急転直下。 明や茉優たちは、3人目の犠牲者を出してしまったことに無念の思いにかられたが、不幸中の幸いと言うべきか、被害者の女性は証言すると言う。 前の二人は未だに入院中で、ショックから立ち上がれない。 ある意味当たり前の話だ。 あんな大勢の目の前で全裸で置き去りにされたら、何も話す気になれないし、誰にも会いたくないだろう。 警察署に到着した結菜は個室に案内され、明と茉優が話を聞く。 「大丈夫ではないと思いますが、必ず憎き犯人を逮捕したいので、ご協力してくれますか?」 「はい」 若いので年齢を聞くと、19歳だと言う。 19歳の少女をそんな酷い目に遭わせて、いたたまれない思いで明と茉優は顔をしかめた。 しかし当の結菜は、見た目ではそんなにショックを受けていないように感じる。 「びっくりしました。いきなり話しかけてきて、ナンパみたいですけど」 「あの、気持ちを確かに持ってください」と明は断ってから、写真を見せた。「犯人はこの男ですか?」 結菜は目を丸くした。 「そうです、この男です!」 「やっぱり・・・」 明と茉優は顔を見合わせると、茉優が聞く。 「何て言ったか、犯人の言葉を覚えていますか?」 「あの、突然、そこの彼女、僕と明るいせ・・・セックスしないって」 あまりのセリフに、二人とも一瞬激怒したが、冷静になろうと思った。 「で、お茶しないとか言ってきたから、丁重に断ったんですけど、大衆の面前で裸にするとかいう話をしたので、まさか犯人って聞いたら、そうだって」 明と茉優は、ここが大事とばかり身を乗り出す。 「で、犯人はその、聞きにくいことですけど、どうやってあなたの服を奪ったのですか?」 「あたし浴衣だったんですけど、犯人の男が両手を回して、ちちんぷいぷいとか、おまじないみたいなこと言って」 「ちちんぷいぷい?」茉優が思わず聞き返す。 「で、そうだ、ちちんぷいぷいのあと、スッポンポンって言ったら、あたしの浴衣も何もかも着ていたもの全部が一瞬で消えて、裸にされちゃったんです」 明と茉優が顔面蒼白になったことは言うまでもない。 「本当なんです、信じてください」結菜は目を見開いて言った。「あたし、嘘は言ってませんよ、いたって冷静です」 「もちろん、嘘だなんて思ってません」 明と茉優は、大衆の面前で全裸にされたにしては、彼女が平常心なのが不思議に思えた。 「あたしが思うに、あれはマジシャンじゃないかと」 「マジシャン?」 「マジックとしか思えませんよ。だって一瞬で着ているものが消えちゃうんだから」 なるほどマジックか。 魔法使いよりは現実味がある話だ。 前へ |次へ |
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