《MUMEI》
9
恐怖の顔で田口を見上げる二人だが、彼は二人に興味がないとばかり、全裸の結菜に歩み寄る。

「あ・・・」結菜は恥ずかしいので背中を見せたが、お尻が丸見えになるので、諦めて正面を向く。

「また会えたね」怪しい笑顔。

「あなたは、何者なんですか?」

「僕の名前は田口貫平」

「たぐち・・・かんぺい・・・さん」

「エスパーだよ」

「エスパー!」結菜は目を丸くした。「マジシャンじゃなくて?」

「マジシャン? マジックであんな真似はできないでしょう。僕は本物のエスパーだよ。何でも思いのまま、欲望の赴くまま」

結菜が赤面して身じろぎすると、田口が察して聞いた。

「助けてほしい?」

「・・・はい」

田口は彼女の手首をほどいてくれた。結菜は急いで下着を身につけ、服を着る。

「お、美少女の生着替え」

「あの、田口さん」

「何かな」

「何で女の子を裸にしたりするんですか?」

「知りたい?」

危ない笑顔だ。結菜は怖かったが、今助けてくれたのは事実なので、普通に会話した。

「女の子は、全裸で置き去りにされたらアウトですよ」

「でもさあ、かわいい女の子の死ぬほど慌てふためく姿って、凄くかわいくて、たまんないんだよね」

「でも、酷いですよ。あたし以外の二人は未だに入院中らしいですよ、ショックで」

「でも僕は悪い子しかスッポンポンにしないからね」

全裸にされた二人はこれ以上残酷な目に遭わされないように神妙にしていたが、悪い子と言われ、ビクッとなった。

「前の二人は何か悪いことをしたんですか?」

「僕のことを意味もなくコバカにしたんだ」

「それは・・・良くないですね」

「君はいい子だから罪悪感があったけど、とびきりの美少女だったからね。美しさは罪でしょう」

「そんな」

「祭りでも花火大会でもない日に浴衣姿で歩くということは、電車やバスに水着姿で乗車するのと同じだよ」

「違います、違います」即否定するしかなかった。

「ぐふふふ。ところで結菜ちゃん」

「何であたしの名前を?」

「一緒に来な」

結菜は緊張した。でも相手はエスパーだ。とても逆らえるとは思えなかった。

「酷いことはしませんよね?」

「もちろん、僕はいい子には酷いことはしないよ」

矛盾を突いたところで仕方がない。結菜は恐る恐る田口に付いて行った。

「あの二人は?」

「君を全裸にして置き去りにしようとした悪い子だよ。情けをかける必要はないでしょう」

「でも・・・」

「女の子を道端で素っ裸にするなんて最低だよ。おまえが言うな?」

「いえ」

「今、心の中でおまえが言うなって独白したでしょう?」

「してません」

「絶対したよ」

「してません」

「君も悪い子の仲間入り!」

「そんなのズルイですよ」

田口は美少女とのやりとりを楽しんだ。

門を曲がると、田口が笑顔で言う。

「結菜ちゃん、そこに立って」

「え?」

言われた通り壁を背にして立つと、田口が両手を回す。

「ちちんぷいぷい」

「やめて!」

「お寝んねの時間」

「あ・・・・・・」

一瞬で眠らせてしまった。結菜は田口に抱きかかえられた。



「んんん・・・」

結菜は目を覚ました。

「はっ!」

すぐに自分の体を見たが、服は脱がされていない。

「ここは?」

「僕のアジトだよ」

「アジト?」結菜は部屋を見回す。

「アジトを君に知られるわけにはいかないからね。君はお喋りだから僕のことをペラペラ喋って仕事がやりにくくなった」

「仕事」

「美女狩りだよ。かわいい女の子を見つけては大勢が見ている目の前で素っ裸にして絶体絶命の大ピンチに追い込む。顔面蒼白の全裸美女がキャーって悲鳴上げて胸や股を隠す仕草が女の子っぽくてそそるのよ」

この男に正論が通じないことは容易に想像できる。

「今心の中で変態って独白したね」

「してません」

「絶対したよ」

「してません」

「君も悪い子の仲間入り! ちちんぷいぷい」

「待って!」

待ってくれない。

「大の字拘束」

「きゃあああああ!」

体が空中に浮いたかと思ったら、床に仰向けに落ち、手枷足枷で大の字に拘束されてしまった。

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