《MUMEI》 8「名前?」 「すっとぼけるならこうだよ」と台がまた動く。 「イタタタタタ! イタタタタタ!」 「じゃあ言いな」 「痛い、痛い、言うからやめて、言うから止めて」 止めてくれた。 「はあ、はあ、はあ・・・」 「時間稼ぎしたら一気に90度だよ」 「待ってください。あの、名前は岸枝」 「きしえだ?」 「茉優」 「まゆちゃんて言うんだ。まゆちゃんは一人暮らし?」 「そんなこと聞いてどうするんですか?」 すると、再び台が動き、明は逆エビ反りで90度まで折り曲げられ、絶叫した。 「ぎゃああああああああああ!」 「じゃあ質問に答えな」 「痛い、痛い、戻して」 両目から涙を流す明を見ると、田口は武人の情けで少し戻す。 「はあ、はあ、はあ・・・」 「一人暮らし?」 「はい」 「アパート、それともマンション?」 「マンションです」 即答しないと逆エビ反りにされてしまう。悔しいけどこの激痛には耐えられない。 「じゃあ、住所を教えて」悪魔の笑顔。 「田口さん、あなたは超一流のエスパーです。ですから仲間を売ることができないことは、わかりますよね」 「わかるよ。でも言わすよ。そういう時のために拷問するんじゃん」 仲間を売るか、背骨を折られるか。明は究極の選択に戦慄した。 「武人の情けはないんですか」 「ないよ」 「仮に住所を教えたとして、やっぱり仕返しするんですか?」 田口は嬉しそうに笑う。 「僕を侮辱した挙句顔面キックから後頭部に踵落としだよ。でも僕も鬼じゃないからね。まゆちゃんが女の子らしくかわいく謝罪したら許してあげるよ」 明は考えた。監禁されたら茉優もきっと全裸にされ手足を拘束されるのだろう。 彼女は果たして降参するだろうか。 「明ちゃん。住所を教えて」 「待ってください」 「教えて」 台が動く。 「あああ、待って・・・ぎゃああああああああああ! 痛い、イタタタタタ、イタタタタタ!」 「教えて」 (嘘、どうしよう?) 明は泣きながら懇願した。 「許して、許して!」 「教えて」 「お願いそれだけは許して」 「じゃあ仕方ない。さようなら」 台が動く。明は完全に逆エビ反りにされ、泣き叫んだ。 「やめてええええええええええ!」 「動くな!」 「え?」 田口が見上げると、何人もの刑事や警官が銃を向けている。 台は止まっている。明は全裸を福三新治や重本係長に見られるのは恥ずかしかったが、じっと助けてくれるのを待った。 「手を上げろ。彼女から離れろ」 田口は福三に言われた通り両手を上げながら明から離れたが、その勢いで背を向けて走って逃げる。 「あ、待て!」 田口は警官に追わせ、重本と福三は明を助ける。 「明、今すぐ助けるから待ってろ」 「うん」 いつも机を並べている同僚の男性に全裸を見られてしまうことは、女性にとって凄く恥ずかしい。 明は顔を真っ赤にして唇を噛む。 紳士な福三は上着を彼女の体に掛けてあげてから、重本と一緒に両手両足をほどいた。 「大丈夫か?」 「あまり大丈夫じゃないわ」 台から下ろされ、明は上着を羽織りながら床にすわり込む。 「あ、もう一人人質がいるんだ!」 「何?」 「3人目の被害者の都倉結菜ちゃんが監禁されているんです」 「何だって」 そこへ田口を追いかけた警官数人が戻って来た。 「逃げられました、というか、消えました」 やはり。 明は福三に任せ、重本を先頭に警官たちは結菜を探した。 ドアに『全裸美女がいるので立入禁止』の貼り紙。 「怪しいな」 皆銃を構える。重本がドアを慎重に開けると、何と結菜が全裸で壁にX字型に磔にされていた。 「何てことだ」 猿轡を噛まされている結菜。 「んんんんん!」 見るなというほうが無理で、目に飛び込んで来てしまったが、19歳の美少女の裸体は、まさに芸術。 たまらなく魅惑的で美しかった。 明に結菜に、全裸美女を立て続けに見られてラッキーと喜んでいる場面ではない。 重本は結菜に話しかけた。 「今助けますからちょっとだけ我慢してください」 重本が結菜の50センチ手前まで近づくと、急に電気が灯った。 前へ |次へ |
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