《MUMEI》 5田口が明に告げた行き先は、新宿アルタ前の大型ビジョンが見える部屋だった。 しかも夜ではなく翌日の昼という時間指定。 アルタ前というのが何となく怖いが、茉優を助けるためには言う通りにするしかなかった。 田口は怪しい笑顔で待っていた。 「さあ、隠している銃やスタンガンや手錠は出しなさい」 「何も思ってないわ。丸腰よ」と明は両手を広げる。 黄色いTシャツに短パンに裸足にスニーカー。刑事には見えない服装に、田口はほくそ笑む。 「明ちゃん。全裸にされることを予想して薄着で来たの」 「違うわ」 「まさか仲間の警察には言ってないね」 「茉優の身の安全が最優先ですから、誰にも連絡していません。あたしを信じてください」 「君はいい子だ。信じよう」 田口は明を窓の近くに連れて行き、言った。 「ここはベスポジなんだよ。アルタ前の大型ビジョンがよく見えるでしょう」 「・・・ええ」 きょうも大型ビジョンの前には、大勢の人が集まっていて、画面を見ていた。 「明ちゃん」 「はい」 「心の準備はいいかな」 「心の準備?」 田口は満面笑顔になると、「ちちんぷいぷい」 「待って」 「X字磔!」 「きゃあああああ!」 明は服を着たままだが、壁にX字型の格好で磔にされてしまった。 「ちょっと、何をするんですか、ほどいてください」 激しくもがく明がかわいい。 「君のところからも大型ビジョンが見えるね」 「待って、何をする気ですか?」 「薄々勘付いているくせに、くくく」 「やめてくださいね、酷いことは。危険を承知で丸腰で来たんですよ」 しかし田口は聞く耳を持たない。 「ちちんぷいぷい、アルタの刑!」 「え?」 X字型に磔にされた明の姿が、大型ビジョンに映し出された。 「あああああ!」 言うまでもなく画面を見ていた観衆は騒ぎ始める。 田口は外と明を交互に見ながら、「では行くよ」 「やめて、やめて」赤面しながら哀願する明だが、田口は容赦しない。 「ちちんぷいぷい、下着姿!」 「だめえええええ!」 服がパッと消え、水色のブラジャーとショーツだけの格好になり、どよめきが起きている。 セクシーな下着姿の美女。 これは一体何の宣伝なのか、それとも事故なのか。 アルタ前広場では、突然通行人だと思っていた若い女子たちが踊り出し、服を脱いで水着姿になり、大勢の水着美女がダンスを披露したこともある。 ダンサーだったのだ。 そんなこともある大都会。 そのため、大画面に下着姿の若い美女が映し出されても、事故か何かの宣伝か半信半疑だった。 しかし、赤面しながら身じろぎしているこの女性を見ていると、事故の可能性も高いと、不安な顔色でざわめく人々も多かった。 「さあ、トドメだよ」 「田口さん、それだけはやめて、それだけは許して」 泣き顔で懇願する明を無視して、無慈悲な田口は、「ちちんぷいぷい」 「やめてえええええ!」 「スッポンポン!」 明の下着上下が消えて、素っ裸になった。 「いやあああああ・・・」 明は恥ずかしさのあまり泣いた。 「やめて、画面を消して、お願い」 「かわいい!」田口は興奮の坩堝だ。「顔まっかっか」 外の様子と大画面に映る真っ裸の明と、部屋の中の全裸の明を見て楽しんでいた田口は、「それでは、さようなら」 「待って、待ってください、待ってください!」 しかし田口は行ってしまった。 「ヤダヤダヤダ・・・見ないで・・・」 頭の中は真っ白だ。間違いなくスマホで撮影されている。 さすがに全裸となると、確実にこれは事件だと大衆も勘付き、警察に通報する人もいた。 「いやあああああ・・・」 大衆の面前で全裸を晒し者にされ、明は気が動転し、気を失いそうだったが、何とか耐えた。 「くううううう・・・」 死ぬほど恥ずかしい。胸も股も全部見られているのだろう。よくもこんな残酷なことができる。刑事だって人間なのだ。 やがてパトカーのサイレンが聞こえると、明は唇を噛んで横を向き、じっと助けてくれるのを待った。 前へ |次へ |
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