《MUMEI》
6
精神的ショックがあまりにも大きく、明は入院していた。

気持ちの整理がつかず、3日間は誰にも会いたくなかったが、4日目に茉優の見舞いだけは断らなかった。

明は無表情で寝ていた。

「明」

「・・・あたしは大丈夫よ。心配しないで」

自分のせいで、明を死ぬほど恥ずかしい目に遭わせてしまった。

かといって自分が同じことをされて耐えられるかと言われたら、とても平常心を保てる自信はない。

「ケダモノというより、悪魔だよ、あの男」

吐き捨てる茉優に、明は聞いた。

「田口は?」

「姿をくらました。最近は事件は起きてないけど」

「そう」

これ以上ない究極の羞恥プレイを実行して、満足を得たのだろうか。

「あたしは平気よ。裸の一つや二つ、見せてやるわよ、見たけりゃ」

「明」茉優は、いたたまれない表情で明を見つめる。

「あたし、体には自信があるんだから。自慢の美ボディを見て男たちはラッキーだったでしょう」

「・・・・・・」

茉優は何て言葉を返していいかわからない。

明は、都倉結菜のことを思い出していた。

19歳の少女が、あんな恥ずかしい目に遭わされても、しっかりした受け答えをしていたのだ。

警察官として自分もしっかりしなくてはと、明は思った。

おそらく大勢の人間がスマホで撮影しただろうから、自分の全裸はネットに拡散してしまう。

一度拡散した画像や動画は完全に回収することは不可能だ。

半永久的に、自分の裸は晒される。

X字型に磔にされ、身じろぎしている恥ずかしい姿を。

「そう考えると」

「え?」

「AV女優って凄いよね」

「AV女優?」

明は窓を見ながら話し始めた。

「体張ってるよね。全裸も顔も晒しちゃうんだから。どこで覚悟決めたのかね。凄い仕事だよね」

「・・・・・・」

「あたしもこれくらいでは負けてられないよ」

「明」

「レイプされちゃったわけじゃないし。殺されたわけじゃないし。体を傷つけられたわけじゃない。本当に殺しちゃう鬼畜な犯人に比べたら、田口はまだマシなほうか」

「それは違うよ」茉優が即反論する。「奴も鬼畜だよ。こんな残酷なことをするのは」

明は口もとに笑みを浮かべると、上体を起こした。

「あたしも寝てはいられない。犯罪は未然に防がないと。特に性犯罪はね」

「明」

「高い授業料だったわ。お互いに犯人には監禁されないように気をつけようね」

「何言ってるの」

「美人刑事が捕まったら、絶対にエッチなことされちゃうからね」

「頭打った?」

ベッドから出るピンクのパジャマ姿の明は、「退院する」

「大丈夫なの」

「大丈夫よ。もっと空手を稽古しようかな。一撃必殺で男を倒せるように。複数の男たちにも勝てるように」

そう言うと明は、両拳を上げて左右のワンツーを打って見せる。

茉優も明の姿を見て、少し安心した。



女性警察官は、犯人の男に監禁されてはいけない。

捕まってしまったら、素っ裸にされて手足を拘束され、エッチな拷問が待っている。

生身の体だから、拷問されたら降参するしかない。

それは警察官として屈辱的だし、情けない。

だから、女性警察官は、細心の注意を払い、無謀な行動を控え、男性警察官と連携を取って完璧な準備をして、捜査に臨むべきなのだ。

明は、全裸で大の字に拘束されてしまった時のことを思い出した。

目の前に田口貫平という憎き犯人がいても、睨むどころか弱気な顔で見つめてしまった。

情けないけど、無抵抗な状態なのに生意気な態度を取るのは勇気ではなく蛮勇だ。

取り返しのつかない残忍な目に遭わないためにも、敵の手に堕ちたら一旦は降伏するしかない。

しかし世の中には、残酷なサディストがいる。

冗談抜きに田口はまだマシなほうで、もっと惨い仕打ちをする邪悪な犯人がいる。

全裸で大の字拘束の状態で、生きたまま全身に灯油をかけて・・・あとはもう言葉に出せない、想像もしたくない残酷刑もある。

それを考えると、やはり捕まってはいけない。

明は、想像してしまい、緊張の面持ちでおなかに手を当てた。



END

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