《MUMEI》
3
千香は面接に合格し、潜入に成功した。広い店だ。面接をしたのは弓矢孝之だった。女性に対して馴れ馴れしいので、千香は顔面にパンチを叩き込みたい衝動に何度もかられたが、必死に耐えた。

「千香」

「はい」(呼び捨てかよ)

「ボスに紹介する。奥の部屋まで来い」

「はい」

真顔の千香に、弓矢孝之は笑顔で言う。

「それにしてもおまえ、本当にいい女だな」

「そんなこと」

二人は歩きながら話した。

「彼氏いるの?」

「いません」

「じゃあ、俺が立候補しちゃおうかな」

千香は口を真一文字にして照れたふりをする。

(百万年早いよ)

「千香は、身長どれくらい?」

「そんなこと聞いてどうするんですか?」

「いいじゃん」

「158センチです」

「へえ、160以上に見えるよ。スタイルがいいからかな」

「態度がデカイからですかね」

「ガッハッハッハ!」弓矢は一人で大笑いする。「面白い千香。気に入ったぞ。俺の彼女になれ」

「・・・・・・」

千香は返事をしない。ボスのいる部屋に到着した。ボスとはおそらく嶋田刃条だろう。

弓矢がドアを開ける。部屋の奥には大きなデスクがあり、ボスがどっかりとすわっている。周りには柄の悪い連中が数人いる。まるでヤクザの事務所のようだ。

「ボス、新人の塩刈千香を連れて来ました」

「・・・・・・」嶋田は千香を見て目を丸くした。眼鏡の奥からじっと千香の顔を凝視する。「君が、新人?」

「はい。よろしくお願いします」

嶋田はすぐに弓矢を呼び、小声で耳打ちした。

「え、マジすか?」

「ああ」

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