《MUMEI》
11
「おい、起きろ、千香、いつまで寝てんだ?」

「ん・・・え?」

千香は目を覚ました。今度は素っ裸のまま磔にされている。X字に両手両足をガッチリと拘束されている。

「千香。おまえはMだから全裸で磔にされるの好きだろう」

千香は答えない。弓矢孝之に拷問を任せて、相変わらず嶋田刃条は遠くから見ている。

「そういえば千香。俺のこと中身が空っぽって言ってたよな」

「あ、それは・・・」

「それは何だ?」

「ごめんなさい。取り消します」

いきなり謝ってしまう千香がかわい過ぎる。弓矢は一瞬慈悲心も湧いたが、わざと怖い顔をして迫った。

「中身空っぽって、おまえに俺の何がわかんだよ」

「本当にごめんなさい。許してください」

「千香。さすがにスッポンポンで磔にされたら、生意気な態度は取れないか」

千香は自分の股を見た。

「あたし、スッポンに噛まれて、どうなったの?」

「武人の情けですぐに俺が引き離してあげたんだぞ」

「あ、ありがとうございます」

弱気丸出しの低姿勢では面白くない。拷問をする意味がなくなってしまう。

「千香。参ったか」

「参りました。もう許して。あなたの怖さは身に染みたから」

「じゃあ、俺と結婚して」

「え?」

また無理難題を言って千香を追い込む。彼女は口を真一文字にして弓矢を見つめる。

「もう許して」

「バカ、俺は本気でおまえに惚れたんだぞ。だからプロポーズしてるんだ」

「待って」

「待たないよ」

「考える時間をください」

「1分?」

千香は胸のドキドキが止まらない。

「今すぐ返事をしなきゃいけないなら、お断りします」

「ほう」弓矢は喜んだ。「いきなりNOか」

「断ったら、あたしを拷問するんですか?」

「違うよ、拷問してOKしてもらうんだよ」

千香は精神的にも追い詰められ、泣きたくなってきた。

「それは、つまり、あたしのこと好きっていうのは嘘ってことですよね」

「違うよ。愛の形は多種多様なんだ。俺は愛する女の困り果てる姿や苦悶の表情を見ると興奮するんだ」

完全にイカれている。千香は身じろぎした。

「ほどいてください」

「せっかく磔にしたのにほどくわけないじゃん」

ほかの男が千香にアイマスクをする。

「あっ」

「千香。視界を遮られると怖いだろう」

「待って、酷いことはしないで」

「酷いことしてほしくなかったら、俺の花嫁になりな」

「・・・・・・」

卑怯だ。一旦軍門に降ってしまおうか。千香が考えていると、弓矢が言った。

「千香。口を大きく開けな」

何かを入れるのか、それとも媚薬でも飲ますのか。千香が唇を強く結ぶと、弓矢はボディーブロー。

「あう!」

「口を開けなって言ってるんだぞ、もう一発行くか?」と拳をおなかに押し当てる。

「おなかはやめて、死んじゃう」

「じゃあ口を大きく開けろ」

「待って、何をするか言って、怖いから」

「いいから開けろ。俺を信じろ」

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