《MUMEI》
2
「ワニはニセモノだ」

「え?」瑠璃子は目を丸くする。

「バカだな瑠璃子。本物のわけないだろ。鬼じゃないんだから、そんな残忍なことするわけないじゃん」

瑠璃子は一気に力が抜けた。水中ではワニには絶対に勝てないという概念がある。恐怖が増大し、本物とぬいぐるみの見分けがつかなかった。

「はあ、はあ、はあ・・・もうやめて、もう許して」

「参ったか?」

「参りました」瑠璃子は思わず両目を閉じる。

「かわいいな」

嶋田は弓矢に言った。

「千香が心配だから、ちょっと様子を見てくる」

「はい」

五人に水着を取られ、エッチな意地悪をされている可能性はある。それくらいは許すが、千香は魅力的なので、子分たちが興奮して頭に血が上り、回されていないか、嶋田は心配になった。

人質はレイプしないほうが値打ちが高くなる。女の場合、レイプしたら、その先は殺すしかない。その手前で、長時間監禁されているのに、レイプしていないという事実は、本人にとっても警察にとっても大きいのだ。

レイプしていないからこそ、交渉のカードにも使える。今頃警察は、血眼になって千香と瑠璃子を探していることは十分に想像できる。警察も、美人刑事が敵の手に落ちたら、無事ではないと思うだろう。とっくに輪姦されていると。せめて命だけは救いたいという思いでいるかもしれない。

だからまだレイプをしていないと知った時、奇跡的なことだと思う刑事もいるはずだ。そして、交渉決裂ならレイプするとも脅せるし、無傷で解放することを条件に交渉を成立させることもできる。

嶋田は廊下を走り、ノックをせずに勢いよくドアを開けた。

「何!」

まさか。五人の子分は、血まみれで皆倒れている。島田は蒼白になった。

「しまった」

心配すべきは千香ではなく、五人のほうだったのだ。

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