《MUMEI》
3
嶋田は階段を駆け上がり、プールへ行こうとした。すると、弓矢が血相変えて走ってきた。

「弓矢!」

「ボス、大変です!」

「何?」

「千香が」

「千香?」

嶋田はプールを覗いた。バスローブ姿の千香が、最後の一人をハイキックでプールに叩き落とすところが見えた。

「まずい」

千香は殺意の目で嶋田と弓矢を睨む。彼女は素早く瑠璃子の手足をほどくと、「警察呼んで」と告げた。

「千香さん!」

瑠璃子が呼び止めたが、千香は後ろを振り向くことなく嶋田と弓矢を睨みながら走る。二人は蒼白になって逃げた。捕まったら殺される。恐怖におののきながら、必死に廊下を走る。しかし千香は速い。運動神経では敵わない。

遅れた嶋田の背中めがけて飛んだ。ジャンピングフロントキック!

「があああああ!」

嶋田は前のめりに倒れた。弓矢は一瞬後ろを振り向いたが、嶋田を置いて自分だけ逃げた。千香は嶋田の顔面に回し蹴り!

「あああああ!」

眼鏡が吹っ飛ぶ。千香は構わず怒りの形相で左右の頭部にキック連打。意識が遠のく。

「待ってくれ、待ってくれ」

「・・・・・・」

「はあ、はあ、私は死刑か?」

千香は油断なく片膝をつくと、嶋田の襟首を掴んで拳を上げた。

「あなたには情状酌量の余地があるわ。獣姦と浣腸を許してくれたからね」

僅かな望みに懸け、嶋田は弱気な表情で千香を見た。

「命までは取らないわ。警察が来るまでおとなしく眠ってなさい」

そう言うと、顔面に右ストレート!

「がっ・・・・・・」

一発で気を失った。千香はすぐに走って弓矢孝之を探しに行く。



もしかして建物の外に出てしまったかと思ったその時、隠れていた弓矢が横から飛びかかって来た。

「貴様」

格闘の実力はプロと素人の差だ。1対1では勝負にならない。千香は弓矢のボディに膝蹴り。両手で腹を押さえて苦しがる弓矢の首すじにエルボー!

「痛い!」

それでも弓矢は倒れずに粘る。千香の腰にしがみつき、壁に押しやる。千香は顔面にエルボーを狙うが、弓矢は素早く離れてナイフを出した。

「へへへ」

「しまいな。それを奪ったら躊躇なく喉を刺すぞ」

ナイフを見ても全く怯えない千香に、弓矢のほうが焦った。千香が距離を詰める。弓矢はナイフを投げる。千香は軽くよけた。その隙に弓矢は逃走する。

「待て!」

弓矢はドアを開けて部屋に入った。千香もすぐに入る。

「はあ、はあ、はあ」

意外にも弓矢は逃げずに部屋の端に立っていた。

「観念したのか?」千香が睨む。

「まさか」

「おまえには情状酌量の余地がある。降伏すれば、痛い目には遭わさない」

「千香」弓矢は余裕の笑顔だ。「孝之さん許してえ、なんて甘えた声出してたおまえが、もうおまえ呼ばわりか」

「死にたいか?」

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