《MUMEI》
4
「死ぬのは千香。おまえのほうだ」

「ハッタリはよせ。本当に殺すぞ」

千香が両拳を上げて迫ると、弓矢は言った。

「まだ隠し玉が残っているんだぞ」

「そうか」

千香は瞬時にフットワークで接近し、弓矢の顔面に右ストレート!

「があああ!」

卒倒した。弓矢は顔を押さえて痛がり、悔しい顔をした。

「テメー、やりやがったな。もう絶対に許さない」

「それはこっちのセリフだ」

「千香」弓矢はふてぶてしい顔であぐらをかくと、言った。「今殴ったことを謝ったら許してあげる。謝らなかったら殺すよ」

「おまえが謝れ」

「いいんだな。もしも立場が逆転して、またスッポンポンにされて手足を縛られて無抵抗にされたらどうする千香。その時に泣きながら謝っても殺すよ。いいのか?」

千香は一瞬ドキッとしたが、気合を入れて睨んだ。

「これ以上罪を重くするのは愚かだ。くだらないこと言ってないで、降伏しなさい」

「うるさいよ千香。おまえはどうせまた素っ裸で大の字拘束にされたら、孝之さん許してってかわいく哀願するんだろ」

「貴様・・・」

千香が殺意の目で歩み寄る。すると、弓矢は横を向き、誰かに声をかけた。

「おい、いよいよ出番だぞ」

「え?」千香が顔をしかめる。

「出て来いシャザーン、アイアイサー」

奥の部屋に待機していたのか、屈強な大男が現れた。千香は身構えた。まだ用心棒がいたとは。岩のような筋骨隆々とした肉体。Tシャツがはち切れそうだ。顔は丸顔で髪はやや長め。見た感じ国籍不詳だが日本語を話している。

「お、ときびりにかわいい。合格!」

「合格?」千香が聞く。

「そう。僕はとびきりの美少女、及び美女としかバトルしないの」

「あんたは、何?」

「では僕から自己紹介するね」巨漢は満面笑顔で話し始める。「僕の名前はコング。身長185センチ、体重185キロ。普通身長と体重が同じ数字ってあり得ないとは思わない。かといって鞠とか言ったらリョナるよん」

「・・・・・・」

「スーパーヒロインならそこで鞠って言っちゃうのがお約束で生姜焼き」

「・・・・・・」

黙っている千香に、コングは笑顔で聞いた。

「もしかして僕にビビッた?」

「誰が!」

「ところで、そのバスローブの下はスッポンポン?」

「くだらない」

「次は君の自己紹介だよ」

「黙れ」

「黙れ?」コングは目を丸くする。「先に言っとくけど僕は血も涙もないコング君と言ったら界隈では有名だよ。名前を言いな。でないと犯すよん」

「千香っていうんだ」弓矢が答えた。

「チカ。かわいい名前。漢字を一発で当てたら何でも言うこと聞くっていうゲームは、どう? どう?」

千香は緊張していた。プロレスラーのような肉体。しかも185キロとは、あまりにも体重差があり過ぎる。だが、格闘技は体の大きさでは決まらない。千香は自分に気合を入れた。

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