《MUMEI》
13
会話ができない猛獣に襲われたら、哀願したところで無意味だ。しかし目の前にいるコングは人間なのだ。会話が通じる人なのだ。千香は諦めなかった。

「お願いしますコングさん。あなたの言う通りにしますから、どうか命までは奪わないで」

「ぐふふふ。それは何、犯していいってこと?」

「あなたがそうしたいなら・・・どうぞ」

顔を紅潮させて囁く千香が美しい。コングは本気でエキサイトしていた。

「千香姫」

「千香って呼んでもいいですよ」

「千香。じゃあ、僕の花嫁になってくれる?」

「優しくしてくださるなら」

「言うねえ」コングは丸鋸を彼女の股に近づける。「この場しのぎを嘘と判明し、さようなら」

「何で、嘘じゃないわ、待って、待って、待ってください、待ってください・・・きゃああああああああああ!」

コングは寸止めした。

「はあ、はあ、はあ・・・」

涙を流しながら息を乱す千香がかわいい。コングは、なかなか体感できないヒロインピンチシーンに酔っていた。とりあえず丸鋸のスイッチをオフにして会話を楽しむ。

「ぐひひひ。僕の花嫁になるっていうのは嘘本当?」

「本当です、信じてください。あたし、自分より強い男の人と出会ったら、結婚しようと思っていたんです。これは本当です」

千香が一生懸命話すのを、コングは危ない笑顔で黙って聞いている。彼女は緊張しながらも早口で喋りまくる。

「あなたは強いだけじゃなく、優しいわ。あなたが本気で殴ったら一発で即死よ。技だって折ろうと思えば折れたのに、あなたはそこまでやらない人。一線をわかってる紳士よ」

「どうして僕が心優しき戦士だってわかったの?」

「わかるわ。あたしは全力を出して闘ったわけだから」

コングは考え込むと、聞いた。

「じゃあ、花嫁になるというのが嘘じゃないという証に、たった今、ナマで中出しOK?」

それは困るが、千香は即答するしかなかった。

「あたしはムードを重んじるから、ホテルに連れてってほしいけど、あたしを信じられないなら、どうぞ」

美人でかわいい千香が唇を噛み、つぶらな瞳でコングを見つめる。あまりにも魅力的な表情に、コングのもともと低い理性は、万里の果てまで飛んでいった。

「ぐひひひ、これはもうルパンダイブ以外の選択肢はなさそう」

弓矢は我慢できずに口を挟んだ。

「バカ、ルパンダイブなんかしない。早く丸鋸を動かせ」

「あ、せ、ら、な、い」

弓矢もコングに任せるしかなかった。それに、千香の弱気丸出しの表情と、必死の哀願の言葉は確かにそそる。

「千香。僕は一生独身ではないかと思ったけど、とうとう結婚できるわけね?」

「コングさんがあたしで良ければ」

「僕は気が多いことで有名だけど、千香をお嫁さんにしたら一筋になろうかな、ぐふふふ」

「・・・・・・」

全裸で無抵抗では、コングの慈悲にすがるしかない。もちろんこの巨漢の花嫁になるつもりなど全くないが、殺されないためには嘘も仕方ない。あとのことは、あとで考えればいい。

「どうしようかなあ」

「コングさん」

「コング!」

コングは丸鋸を持ったまま、両目を閉じて考え込んだ。

「うーん、うーん」

コングを見つめる千香と睨む弓矢。コングは目を開けると、天井を見上げて叫んだ。

「交、渉、決、裂!」

「え、何でよ!」千香は泣き顔だ。

「あ、間違えた、交渉成立したんだ」

「はあ・・・」千香は全身の力が抜けた。

弓矢孝之は怒ると、コングに言った。

「何やってるんだよ、早くしろよ」

「チミは日本語わかる?」

「何!」

「今、人の話聞いてなかったの。僕のプロポーズを千香が受けてくれたんだよ。自分の花嫁を丸鋸で切り刻むバカがどこにいる?」

「ふざけるなバカ!」

弓矢は両手でコングから丸鋸を奪い取ろうとする。

「貸せ、早く、よこせ・・・があああああ!」

コングは丸鋸で弓矢の顔面を殴打した。弓矢は吹っ飛んで倒れた。

「バカ・・・・・・貴様」

「こんなかわいい女の子を殺したらダメでしょう」

「黙れ、高額の用心棒代を払ったのに、全額返してもらうからな」

「嫌だ。千香との新婚旅行にあてるの。ぐふふふ」

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