《MUMEI》
15
弓矢孝之は、辺りを探した。

「あれ、コングは?」

ベッドの上を見ると、怯えきった表情の千香が、こちらを見ている。彼は笑った。

「嘘、コングも薄情な男だな。何が花嫁だ。千香を置き去りにして逃げたか」

弓矢は床に置いてあった丸鋸を持ち上げると、スイッチを入れた。

「千香テメー」

危ない笑顔で迫って来る。ここは意地なんか張っていられない。プライドよりも命と体のほうが大事だ。生きたまま切り刻まれるなんて嫌に決まっている。

「やめて」千香は震える声で懇願した。「孝之さん、お願いですからそれはやめて」

「今さら名前呼んだってダメだよ。そういえば俺にも花嫁になるって言わなかった? 誰にでも言ってるんだ」

「違います。裸で無抵抗の状態で脅されたら、言うこと聞くしかないですよ」

泣きそうな千香がかわい過ぎる。弓矢の興奮も最高潮だ。

「じゃあ、どっちが本当だ。コングか。それとも俺か?」

「孝之さんです」

「俺の花嫁になるって話は本当?」

「本当です」

「コングのは嘘?」

「嘘です」

しかし弓矢は許さない。丸鋸を彼女の股に近づける。

「ヤダ、やめて、危ないからホントに・・・あああ! いやあああああ!」

1センチまで迫る。万事休すか。ここで死ぬのか。

「やめて、やめて、やめて」

「クックック。千香。泣け! 泣き叫べ!」

弓矢は電気鋸で千香の股を直撃する!

「きゃああああああああああ!」

「ドロップキック!」

「があああああ!」

弓矢は丸鋸を持ったまま吹っ飛んだ。半失神の千香は、驚きの表情で目を見開く。そこにはコングがいた。

「こんなかわいい女の子を殺そうと思う神経がわからない」

「黙れ!」

弓矢は丸鋸のスイッチを押すと、そのままコングに迫る。コングは満面笑顔になると、ボディにフロントキック!

「あああ!」

一発でダウンする。コングは丸鋸を奪うと放り投げ、弓矢を無理やり起こし、顎にアッパーカット!

「があああ!」

力では勝てない。弓矢は両手を出して言った。

「わかった、待て、千香はあげるから」

「千香はチミの所有物じゃない」

コングが猛然と襲いかかる。弓矢は逃げようとしたが、バックを取られた。

「やめろ・・・あああああ!」

バックドロップ!

後頭部を痛打し、弓矢は起き上がれない。千香は心配顔で見ていた。コングは半失神の弓矢の上に乗ると、岩のような両拳を上げた。

「ボーカボーカボーカ!」

「ぎゃあああああ!」

「ボーカボーカボーカ!」

弓矢孝之は顔面を殴打され、血しぶきが飛ぶ。コングが本気で殴るとああなるのかと、千香は戦慄した。やはり女には手加減する紳士なのか。

完全に気絶している弓矢。コングは「念のため」と呟き、弓矢のベルトを外し、両手首を縛る。「男を縛っても面白くとも何ともないが」

コングは再び千香の目の前まで来た。

「かわいい!」

「コングさん、ありがとう。このご恩は一生忘れません。何てお礼を言っていいかわかりません」

「わからないなら教えてあげる。お尻をレロレロさせて」

「え?」

「冗談」

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