《MUMEI》
16
その時、ドアを叩く音がした。

「開けろ!」

ドンドンドンと激しく叩く。

「よし、構わん、ぶち壊せ!」

「どうやら助けが来たようだね」

「コングさんお願いほどいて。あたしが説明するから。あなたが助けてくれたって」

「無理。僕はお尋ね者だから」

コングは敬礼ポーズ。

「また会おうぜい、ベイベー」

「コングさん!」

コングは去っていった。ドアが叩き破られる。先頭は刑事課長だ。銀行強盗犯を取り押さえた時は下着姿だからまだいいが、全裸は恥ずかしい。

「あ、ちょっと・・・」

「千香!」

課長は目を丸くした。千香が素っ裸にされ、手足を縛られている。一生に一度見れるか見れないかの無惨な大の字拘束の姿に、思わず硬直してしまった。

「千香・・・」

「千香さん!」

瑠璃子が飛び込んできた。床にバスローブが落ちているのを見ると、素早く拾い、千香の体に掛けた。

「瑠璃子」

「千香さん」

あまり大丈夫でもなさそうだ。「大丈夫?」なんて聞けない。瑠璃子とほかの刑事も手伝って、千香の手足をほどいた。

弓矢孝之は起こしても起きない。仕方なくタンカで運ばれていく。血まみれの弓矢を見て、瑠璃子が驚きの眼で聞いた。

「あれは千香さんが?」

「・・・違うわ」

「じゃあ誰が?」

「・・・・・・」

千香が答えないので、瑠璃子もそれ以上は聞かなかった。

「救急車乗って」

「大丈夫よ」

「大丈夫なわけあるか」課長が言った。

千香はバスローブを着て帯を締めると、皆を安心させたくて言った。

「レイプはされてないから」

その一言に、課長やほかの刑事も、そして瑠璃子も、安堵の溜息を吐いた。女性が人質に取られた場合、レイプをされたのと、されていないのでは、天地の差だ。そこに無頓着な警察官であってはならない。

全裸で大の字に拘束されている姿を見たら、強姦されたあとだと思ってしまう。瑠璃子も我がことのように九死に一生を得た気持ちだった。

(良かった)

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