《MUMEI》 新学期「おはよ〜!!」 「久しぶり〜!!元気だった!?」 長期休暇が明けた新学期、学校は生徒の声で賑わっている。 帰りたい・・・・・・。 歩雪は学校へついたばかりにも関わらず、どんよりとした空気を漂わせながら廊下を歩き続ける。 前と変わらない騒ぎ声、廊下、教室。 それでも何かが違う。 いつもとは違う。 隣が、空いている。 ぽっかりと、1つ欠けたパズルのように。 こー、早く来ないかなぁ。 オレ1人で来るの慣れてないんだからさ。 歩雪は寂しさという感情を胸に抱きながら今宵の姿を頭に浮かべる。 そのまま教室に入ると、いつもの溜まり場から声がした。 「あら、歩雪。おはよう」 「はよ、秋葉」 歩雪は挨拶を返しながら自分の席に鞄を置き、窓にもたれている秋葉に近づく。 秋葉は1人だと他人を寄せ付けない感じがするな。 歩雪は4人でいる時とは違う雰囲気の秋葉を見て思った。 いつもは整った顔からにじみ出るようなキツさよりも、ふんわりと表情を緩めて出す穏やかさの方が多い。 しかし1人でいる時はキツさや冷たい感じが多く、ピリッと張り詰めた空気を持っている。 まぁ、多分オレもそうだろうけど。 歩雪も秋葉も、もともとは一匹狼。 しかし今宵や紘のような無邪気で裏表の無い2人といると、自然に表情が柔らかくなるのが自分でも分かる。 「何よ」 歩雪はぼーっと秋葉を見ながら考えていたので、見られている方は怪訝そうに声をかけた。 「何でもないよ」 秋葉を通して今宵を思い浮かべていたなど言えるわけが無い。 歩雪は何でもないように返した。 「じゃあ何で見てたわけ?」 「だから別に・・・・・・」 「やぁっだぁ〜!!歩雪くんったら浮気〜?今宵にチクっちゃうぞ♪」 突然会話に無駄にテンションの高い声が入った。 一瞬間があったが、当然2人は無視をすることにする。 「そう。何でもないならいいけど」 「ん」 「・・・ってオイオイオイ!!!シカトすんなよ!!」 普通にスルーをする2人に、無駄にテンションの高いまま紘は突っ込んだ。 1人で騒ぎまくっている子供を見て、歩雪と秋葉は呆れたようにため息をつく。 ホントウザい、という本音が純度100%含まれていると言うのは言うまでも無い。 これに気づかないまま紘は元気に笑顔で歩雪と秋葉の元へ駆け寄ってくる。 「おっはぁ〜!!!紘くんとの久々の再会だぜ!!嬉しいか?嬉しいよな〜!!んでよ〜」 「うるっさいわね」 「黙ってて」 「ひでぇ!!!」 思いっきり冷たく切り捨てる秋葉と歩雪に、紘は1人打ちひしがれた。 「で、さっき何言おうとしたの?」 「言いかけて止めないでよね。気持ち悪い」 「お前らが止めたんだろーがぁっ!!!」 相変わらず冷たく尋ねる2人に、紘は思いっきり泣きたくなった。 つーかこいつら今宵いねぇと性格最悪だな、オイ。 紘の頭には、今宵が坊主の女性、今宵に懐く豚が歩雪、河童が秋葉、というある御一行様の図が浮かんだ。 ・・・・・・ってことはオレ猿じゃねーか!!! 「あんたおかしいわよ」 「ホント痛い人だね、紘は」 猿の如く暴れだした紘を見て、秋葉と歩雪は声をかけた。 「うっせーよ!!!っつーかそうじゃなくて!!今日、今宵何でいねぇんだよ?」 「ああ、あたしもさっき気になったのよね。何で来てないの?」 紘の言葉に頷きながら秋葉も歩雪に尋ねる。 2人の視線を受けながら歩雪はあっさりと口を開いた。 「入院してるから、こー」 「入院!?」 「入院だぁ!?」 「あ」 歩雪は2人の叫ぶ声を聞いて今宵の約束を思い出した。 『退院するまで言わないで』 『いい?絶対だからね!?』 どうしよ・・・・・・。 前へ |次へ |
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