《MUMEI》

深い深い地の底、太陽が沈んで何も判別が出来ない暗さ。子供みたいに駄々をこねてキスをせがんだ。


その要求に嫌な顔(見えないから感触だけ)一つせずに応えてくれる。

あんまり優しいから夢だと気が付いた。一糸纏わぬ姿で明らかにおかしいことは目覚めてから気が付くことになるだろう。


七生が一言も話さないで体を撫で回す。ペットとかのそれと似ている、人でない扱いされて気持ちいいだなんて考えてしまうのは七生だからだ。

もっとなんでしょう?
快楽に任せて揺れる。



もっと、もっと





もっと……








泣きたくなった、いや、涙でいっぱいだった。何なんだよ自分。


まだ4時だった。春なのに汗びっちょり。……ついでに下半身も。家族を起こさないように着替えるのがまた虚しい。窓から柊荘を覗いてみた。離れると夢にまで出るくらい愛しいのに近くにいると愛し過ぎて怖くなる、それの繰り返しだ。

硝子に額をつけて冷やす。この間から反省が足りてない。七生の方がずっと偉い、俺のために我慢させているのに俺が我慢出来てないなんて……。


免疫がついたのか、強引なのが嫌じゃなくなってきた。なんかの拍子で二人で脱ぐようなことがあれば多分、…………許す。


フラッシュバックは起こさないかな、夢の中では上手くいっているもの、七生なら大丈夫だと信じるべき?

「おはよー……」

夢の中の七生が浮かんでくるので顎に視線を落とす。


「オハヨー」

七生は満開の笑顔を振り撒いている。……まばゆい。



欲望とトラウマがせめぎ合っている、日中もこれなのか???……深刻な悩みになりそうだ。


「乙矢、恋人と上手くいく秘訣何がある?」

休み時間絶えず読書の乙矢に疑問を投げ掛けてみる。七生が先生に呼び出されている隙に。


「上手くいかないの?」


「わかんない。相思相愛なんだけど、伝えられない。」


「ノロケだろそれ、完璧に解ろうとする必要はないじゃないか。真摯に受け止めるのも大事だろうけど楽しまなきゃ。」


「そっかー。」

楽しむ……、そんなに悩まなくてもいいのかな。


「木下、彼女出来たのか!おめでとー」

う 東屋に聞かれたか、学校内で相談してしまったからだ、なんて抜けてるんだ。俺どうかしてる。


「うん」


「いや、良かった!木下イイヤツだしやっぱり幸せになって欲しかったからさ」

こんな素直に喜んでくれるなんて。りょ、良心の呵責が……


「うん、ありがと」

そしてごめんなさい。彼女じゃなくて彼氏です。


「なんか、一般の青少年より下ネタ嫌いだし心配してたんだよな。でも水瀬と付き合えたり俺よりモテるし正直なんでお前ばっかり!とか考えてた。

やつれてく一方だったけど血色良くなってきたし、やっぱ恋のチカラ?」


「…………嫌味?」


「照れてやんの」

東屋の前で殴る真似をする。彼はセオリー通りに吹っ飛んでいくフリをした。


「二郎っ、半分配って〜」

プリントを抱えて七生が帰ってきた。いい笑顔しちゃって、好きだ。


「どーした?ぼーっとして」

七生にちょっと気付かれたかな。頬がほんのり赤み帯びてる。


「東屋も手伝って。」

はぐらかしてしまう。


「美作には頼まないのな」

東屋がうらめしそうに乙矢を睨み付けた。


「役得?」

乙矢が口の端を上げて言う、見ようによっては笑っている。彼は定位置から離れない。皆が遠慮してなのか、いつの間にか彼に使われているだけなのか。

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