《MUMEI》

「……やはりカケル君には、もう少しMHOを楽しんで貰う必要があるな。僕の…いや、私の為に。」

イラつきながらもどこか楽しそうな矢吹は、無邪気に視線を上へ向けた。素敵な思い出を振り返るように、子供が夢を思い浮かべるように。

「俺は他の誰でもない、俺自身の為にMHOを生きると決めたんだ。」

浮ついた矢吹の機嫌を遮る気持ちで睨みつけたが、予想通り効果はないように見える。

「ふふ、そういうことにしておきましょうか。」

笑みを溢すと、矢吹はまた足を組み変えた。今度のは余裕の表れだろう。

この流れがたとえ矢吹の思う壺だとしても、やはり質問は次から次へと溢れてくる。

「…それと、十二人。」

`十二人′という単語を発すると、矢吹の表情が僅かにだが揺れ動いた。そして、俺はその揺れを見逃さなかった。

「俺はあんたのお仲間を名乗るアルテミスとかネプチューンのことだと踏んでるんだが、あいつらはなんでああも俺に興味を示してくるんだ?ネプチューンに至っては、ありゃもう敵視超えて殺意が見えたぜ。」

矢吹から目を逸らさずに言うと、次に云う言葉を慎重に選んでいるのがどことなく窺えた。

しかし、俺は敢えてその言葉を待たずに続けた。

「そしてその興味は、あんたからの俺に対する興味から伝播していたように思えた。」

言い終えて尚、矢吹は考えを言葉にはしなかった。

一歩間違えた発言をすれば、今後のMHO攻略に関わってくる情報だということは断定して良いだろう。

「……そう、彼ら神の名を名乗るプレイヤー達が`十二人′だ。俺を慕って開発に協力してくれた―――…同志、だよ。」

矢吹は、少し言い辛そうに言葉を連ねるのを躊躇った。

同志、俺にとってのハルやアカネ、サヤ、妖精たち。

彼女らを説明する時、俺はこんな風に表情を曇らせるだろうかと考えてみた。が、そんなことを試すまでもなく有り得ない話だ。

矢吹と十二人には、同志という肩書きだけでは言い足りない何かがあるらしい。

これは思わぬ収穫を得れた。

これから接触してくるであろう十二人から、矢吹の深い部分に触れるチャンスが巡ってきそうだ。

俺は、口内に残った少しの唾を飲み込んだ。

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