《MUMEI》
あと二時間
「ほら、行くよ」
呆然と保健室を振り返っていたユウゴをユキナが急かした。
「え、ああ」
ユウゴは保健室を気にしながらも走り出した。

 二人がいる場所は校舎裏の狭い通路。
ユキナが向かっている方向には正門が見える。
「っと、ストップ」
突然、ユキナが立ち止まった。
「なんだよ」
「ほら、あれ」
言って、彼女は前方を指差した。
その方向に見えるのは正門からウジャウジャと侵入してくる黒い集団だった。

「援軍到着ってか?」
「……わたしたちに援軍は?」
「来るわけねえだろ」
「だよね。……とにかく、こっちに」
ユキナは肩を落としながら、反対方向に走り始めた。
ユウゴはもう一度、確認するように警備隊の援軍を見た。
最低でも二十人ぐらいはいるだろう。
「…いったい、どこから沸いて出たんだよ」
苦々しく言い捨てるとユウゴも走り出す。

「それで?お次の罠がある部屋は?」
 燃えている家庭科室がある校舎の後ろまで来ると、二人は姿勢を低くして身を潜めた。
炎はゆっくりと他の部屋へまわっているようだ。
「え?」
「あるんだろ?」
しかし、ユキナは首を振る。
「あれで全部だけど?」
「マジ?」
「あんな短時間でそんなに仕掛けられるわけないでしょ」
「ああ、そりゃそうだな。おまえならもしかしてと思ったんだけど」
ユウゴは納得しつつも残念そうに頷いた。

「あと、残り時間ってどのくらい?」
「さあな。時計、持ってないし」
ユウゴが答えると、ユキナは立ち上がり、窓から教室を覗き込んだ。
「今、八時過ぎね」
「あと、二時間か」
ユキナは再びしゃがみ込んだ。
「あと、二時間。二人対二十人以上。多分、学校の周囲は包囲されてる。この限定された区域で逃げ切れると思うか?」
 ユウゴは自然と自虐的な笑みを浮かべる。
ユキナは少し考えるように俯くと、ふと視線を上に上げて笑ってみせた。

「逃げ切ってみせようじゃない」

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