《MUMEI》
サイドエフェクト検査
「ほら、行くぞ」

差し出された手を、素直に握れない。

さっきの声が、なぜかものすごく怖いから。

「……ああ、なんなら服の裾にしとくか?手ぇ繋ぐのは嫌だよな」

苦笑いする迅さんは、半ば無理矢理オレに自分の服の裾を握らせる。
さっきみたいな声は聞こえなくて、安心した。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

オレが連れてこられたのは、開発室。

「鬼怒田さーん、いますー?」
「お、迅かー?室長なら今いねーぞー」

迅さんが呼び掛けると、長髪を後ろでひとつに結んだ男性__A級2位部隊の隊長・冬島さんが室内から出てきた。

「何かあったのか?」
「んー……今サイドエフェクト検査やるって、ちょっときついかな?」
「いや、大丈夫だ。ところでそっちは__嵐山隊の佐鳥か」

冬島さんは、せっせとサイドエフェクト検査とやらの準備を始めた。

「痛くはしねーから、安心しろよ。声が聞こえたら左手のボタン押せ」

冬島さんの声。
オレは、目隠しをされて椅子に座っている。

「そんじゃ、始めるぞ」

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「冬島さん、結果は?」
「あー……他人及び動物に直に触れることによって発動する、相手の思考を読みとるサイドエフェクトだな」
「なにそれチートじゃん」

迅さんの呟きが、オレの心と完璧に一致した。

もっとも、本人にとっては必要ないことこの上ない能力なのだが。

「どうやったらそれって発動しないんです?」

オレが訊くと、冬島さんは唸る。

「うーむ……間に何かしらの素材を挟むと発動してないから、とりあえずこのトリオン製の手袋はめて迅に触ってみ」

渡された、透明で薄い手袋。
それをはめて迅さんに触ると、確かに何も聞こえない。

「すごい……」
「気に入ったか?そんじゃそれ使えよ。いざとなったら強いぜ〜」

冬島さんの男らしい笑み。
迅さんはそれに苦笑いして、オレを開発室の外へ連れていく。

開発室を出る直前に一応会釈はしたけど、今度きちんとお礼を言わねば。

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