《MUMEI》
初めての授業
授業が本格的に始まると、クラスに行くまでに必ず一度は1年生の皆が道に迷った。オレ達は迷わなかったけど。

そもそも、階段がおかしい。

真ん中辺りで必ず1段消える階段、
決まった時間で向きが変わる階段、
広いだけで普通の階段。

扉も同じぐらいにおかしかった。
決まったところをくすぐらないと開かない扉、
丁寧に懇願しないと開かない扉、
はたまた、

「おい、開けろこの石扉野郎。オレの手が傷ついちまうだろうが」

なんて罵倒しないと開かない扉。

なんとかそれに慣れると、授業はまあまあ面白かった。

[天文学]の授業では星のことを学べるし、[薬草学]の授業では不思議な植物がたくさん見られる。
[魔法史]は皆が撃沈してるけど、頭の中でボーダー隊員に置き換えれば面白い。
[妖精の呪文]だって楽しいし、それに何より、[変身術]の授業が楽しい。

初めての授業ではマッチ棒を針に変える練習をした。

マクゴナガル教授は確かに厳しかったけど、オレが綺麗にマッチ棒を針に変えると、ちょっとだけ微笑んで褒めてくださった。

…………でも、[闇の魔術に対する防衛術]の授業は微妙。すっごく微妙。教室はずーっとニンニクの匂いがするし。
お陰で頭がずきずきして痛い。

教室から出て新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込むと、授業中の頭痛がちょっとだけ軽くなった。

それでも階段でふらっとよろめいてしまったオレを、誰かが受け止めてくれた。

「……大丈夫か?」
「あ、本部ちょ……真史、ありがとう」

ぎゅっとローブの袖を掴んだまま、オレは真史に抱き上げられて階段を下りた。

「……恥ずかしいです」
「誰も見ていなかったし、いいだろう?」
「そうですけど……」

一緒に大広間へ向かっている途中、何度も好奇の視線を向けられた。

真史も快くは思わないようで、そんな視線を向けられる度に眉間の皺が深くなっていく。

「……あいつらの首、旋空弧月で切り落としたい」
「真史落ち着いて」

やけに物騒な真史に、オレはツッコまずにはいられなかった。

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