《MUMEI》

ラグラエルはミカエルをつれ自身の神域にある屋敷にもどって来ていた。
神域は常に灰の降る場所、ラグラエルの系譜のもの以外は入れない不可侵の領域だった。
屋敷は荘厳かつ美しかった。

「ミカ、ここが私の世界だ美しいだろ?」

ミカエルは「あぅーう」と言いながらラグラエルの髪を口に含みはむはむと食んでいた。

「ミカそれは食べ物じゃないやめないさい」

そういいながらラグラエルは屋敷の門をくぐり扉の前に立つ、すると扉が勝手に開かれる。
そこには執事服を身に纏った壮年の男が立っていた。


「お帰りなさいませ、ラグラエル様」

恭しく頭を下げる執事。


「あぁ今帰った、ウェンすまないがこの子が食べられるものを頼む」

ウェンと呼ばれた執事はラグラエルの腕に抱かれている赤子をまじまじと見ていた。


「ラグラエル様、どなたかと子作りをされたのですかな?」


「止めてくれあんな奴らと誰がするものか想像しただけで反吐が出る」


「失礼いたしました」


「まぁ良い、この子は私が灰にした国で生き残っていたのだ、それに私の力が効かぬみたいなのでな」


ラグラエルはウェンにミカエルを拾った経緯を話した。


「なんとも面妖ですな、ラグラエル様の御力が効かないとは」

ミカエルはお腹が空いているようで「うぅー」と言いながらラグラエルの髪をはむはむしている。


「ミカ、それは食べ物ではないやめなさい?」


「では、料理長にお嬢様が食べられるものを頼んできますゆえ、お部屋でお待ちください」


「あぁ、頼んだ」


恭しくお辞儀をしウェンは厨房へと向かった、その後姿を一瞥し自身の部屋へと向かった。
部屋でミカエルをあやしているとコンコンとノックをされ扉が開かれる、そこにはウェンがシチューの入った器を持ってたっていた。


「ラグラエル様、シチューを持ってまいりましたよ」


「すまないな」


「いえいえ、それでは何かあればおよびください」

そう言ってウェンは立ち去っていった。
シチューは程よく冷まされており、ミカエルの食べられる温度となっていた。
ラグラエルはシチューを掬うとミカエルの口元に持って行き少しくちにふくませる。
ミカエルはふくんだシチューを飲み込む、そして「あぁーう」と言いながら次を催促する。


「そうか、美味しいか」

ラグラエルは顔を綻ばせながらミカエルにシチューを与えるのであった。
そしてシチューを食べお腹がいっぱいになったのかミカエルはうとうとし始めた。
ラグラエルはミカエルを抱きかかえ鼻歌を歌いながら揺り籠のように揺ら揺らと体を揺らし始める。
するとミカエルはすぐに眠ってしまったのだった。

「この子の未来に多大なる幸があらん事を」

すやすやと眠るミカエルを慈愛に満ちた瞳で見つめながらラグラエルは加護を与えるのだった。

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