《MUMEI》
『ボーダー上層部』
「__そうか。報告ご苦労。ああ、霧宮隊員は残ってくれ」
「はい。また明日ね、三輪」
「……ああ。失礼しました」

三輪が会議室を出ていく。
自動扉が完全に閉まるのを見届けて、ボーダーの最高司令である城戸さんがため息をついた。

「……で、まだ進展しないのか?」
「うう、だって……私って三輪のタイプとは真逆ですもん……明るくないし、性格もよくないし、それに顔だって……目つき悪いっていうか目つきヤバイじゃないですか」

営業部長の唐沢さんは苦笑する。

「案外、そう思ってるのはきみだけかもしれないよ?」

本部長補佐の沢村さんも頷く。

「1回でもいいから、オフに2人っきりでお出掛けしてみたら?そうしたら少しは変わると思うの」

ちょっとだけ反抗心が沸いた。
沢村さんだって片想い仲間のくせに、って。

「そういうのは提案者自身がそれをできてから言わないと説得力ないですよ」
「あら、訓練相手になってくれるの?久々だから加減できる気がしないんだけど良いわよね」

笑顔でトリガーを出す沢村さん。
現役の時のオーラが出てますよー。

「すみませんでした冗談です」
「よろしい」

よし、帰ったら迅に慰めてもらおう。

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

「ただいまー」

支部の中に入ると、その瞬間にずきっとした痛み。

痛みの発生源である屋上には、いつものように辛そうな表情の迅がいた。

(……慰めてもらう前に、慰めなきゃだな)

迅の隣に座ると、迅はいつものように私の膝に頭を乗せてくる。

「今日は何視たの、いつもの4倍は痛いんだけど」
「……民間人が死にまくってた」
「あっそ。でも、私はそんな未来許さないからね」

鳶色の髪を撫でていると、迅はうとうとし始めた。

「……迅、ここで寝たら落ちて死ぬ」
「んー……連れてって」
「はいはい」

トリオン体に換装して、珍しく生身らしい迅を抱き上げる。
そのまま部屋に連れていってベッドに寝かせると、迅はものの数秒で寝息を立て始めた。

「今度は何日寝てなかったの……バカ」

起こさないように静かにドアを閉めて部屋を出ると、木崎さんが頭を撫でてくれた。

「……いつも、ありがとうな」
「いえ、私の仕事ですから……」

その日の夕食は木崎さんの作った肉肉肉野菜炒めだった。

美味しかったのに、迅のことが気になるばかりで碌に喉を通らなかった。

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