《MUMEI》
『鹿のや』
「……迅、私は先に支部に戻る。お客さん用のお菓子は必要?」
「あー……『鹿のや』のどら焼きか練り切りがいいな。金渡すか?」

換装を解こうとする迅。
私は首を振った。

「いい。使わなくて貯まりに貯まったのがざっと8000万ぐらい色んな銀行のATMにある」
「お前もう家買えよ……」
「一緒に住む人がいないからやだ」

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

時々支部で出されるいいとこのどら焼き。
それを売っている『鹿のや』の店内に入ると、店員の中で一番若い男の人__萱原さんが声をかけてくれた。

「奏ちゃん、今日は何が欲しい?」
「……どら焼きと練り切り、それぞれー……11個ずつあります?」
「あるよ。練り切りは椿と梅とあるけど、どっちがいい?」

サンプルを見せてもらうと、椿の方が梅より少し大きい。

「椿でお願いします」
「分かった。そうだ、おまけ付けてあげるよ」
「え?」

萱原さんはいたずらっぽく笑う。

「ちょうど時間が来ちゃって廃棄のやつがあるんだ。まだ食べられるし、勿体ないからさ」
「あ、ありがとうございます」

萱原さんがお菓子を詰めてくれている間、いくつか貰った廃棄のお菓子の内のひとつを食べながらお茶を飲む。

(和菓子最高……)

甘すぎない餡に程よい苦みの抹茶入りの緑茶がよく合う。
思わず頬が緩む。
その時、突然声をかけられた。

「……霧宮さん?」
「つ、月見さんですか……?」

恥ずかしい。
思いっきり緩んでいるところを見られてしまった。

「霧宮さんもこのお店にはよく来るの?」
「はい、まあ……練り切りが好きで」
「そう……クールかと思ってたけど、意外とかわいい一面もあるのね」

月見さんの言葉に、頬が熱くなるのを感じる。

「奏ちゃん、できたよー」
「あ、ありがとうございます……」

萱原さんに救われた。
代金を払って、そのまま月見さんに一礼してさっさと店を出る。

……恥ずかしかった。

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