《MUMEI》 『三輪 秀次』「ただいま」 「あ、奏ちゃんおかえり〜」 宇佐美に『鹿のや』の袋を渡す。 「それ、この後来るお客さんに出して。余ったのは林藤さんとあの3人にあげて」 「分かったー」 部屋に戻って、ふわふわの部屋着に着替える。 ぼふっとベッドに体を沈めると、三輪の声が蘇った。 __何故、近界民を庇う? (そんなの……決まってる) トリガーをぎゅっと握りしめる。 今この手が白いのが、信じられない。 (三輪に、同じことはさせたくない) 三輪の手が血に染まる姿は、見たくない。 ……言わば、私のエゴだ。 近界民を庇うのは、三輪の手を汚させないため。 それに、奴が私達にとって不利益になるなら迅も庇わないだろうし。 (……三輪は割り切れないだろうけど) それでも、最善の未来に繋がる道を選ぶのが迅という男なのだ。 そしてそれにとことん付き合うのが私なのだ。 ……三輪に、嫌われてしまうだろうか。 それでもいい。 三輪が無事なら、それでいいんだ。 ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ 「……三輪くん、霧宮さんのことが嫌いな訳じゃないのよね?」 「ああ……」 「霧宮さん、帰る時の後ろ姿が寂しげだったわ」 「……ああ」 どうして、近界民が絡むとあんなことしか言えないんだろう。 霧宮の優しさに、甘えることしかできないんだろう。 (俺だって、霧宮に優しくしたい……) したいのに、素直にできない。 どうして、俺は優しくなれないんだろう。 優しくなりたい。 霧宮の優しさに甘えるだけなのは、もう嫌だ。 「蓮さん……どうしたら、優しくなれますか?」 「……ふふ、まずは陽介くんに対して優しくなりましょうね」 「う……はい」 優しい霧宮のために、俺も優しくなろう。 前へ |次へ |
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