《MUMEI》
『迅 悠一』
廊下を覗いた瞬間迅に呼ばれてリビングに向かうと、宇佐美と三雲、そして駅で三輪と戦っていた近界民とかわいい女子がいた。あと陽太郎と雷神丸。
迅に無理矢理座らされる。

「奏、今日はありがとな」
「……なんで」

迅が私の頭を撫でる。
髪がくしゃくしゃにされるけど、悪い気はしない。

「お前が来てくれなきゃもっと拗れてたろうからなー……けど、お前には辛い思いさせちゃったか?」
「別に……私も、三輪の疑問は分からなくもないから」

私がため息をつくと、宇佐美がぎゅっと抱きついてくる。

「もー、奏ちゃん……暗くなっちゃダメ!」
「……分かってる」

宇佐美を退かして迅に寄りかかる。

「お、今日は積極的?」
「……オフなのに急に呼び出されたから疲れただけ」

迅の蒼い瞳が楽しげに細められる。

「けど、秀次と喋れたろ?」
「そういう問題じゃない……そういう問題じゃないの……」

薄紅色の湯呑みを口に運ぶ。
向かいから質問が飛んできた。

「迅さん、そっちの人は誰?」
「あ、こいつは……」
「……霧宮奏。迅とは幼馴染ぐらいの関係」

女子が首をかしげる。

「迅さんの彼女さんですか?」
「いやぁ、こいつは秀次のことがふぁっ」
「宇佐美訓練室開けろこいつ殺すから」
「あいあいさー☆」
「ちょっと待ってほんとごめんおれが悪かったああああ」

人の恋心をバラそうとする奴は全て殺す。それが私の務めだ。

まあ、迅にはいつも世話になってるし……許してやるか。

「奏さ、時々かなりヤバイ目してるぞ」
「……ごめん」

迅がじっと見つめてくる。

「何……?」
「お前、1回でいいから告白してみたら?」
「やだ……フラれた時立ち直れる気がしない」
「いやー、フラれはしないだろ」

迅の手が私の腰を掴む。
そのまま迅の方に引き寄せられて、体を密着させる形になった。

「幼馴染の贔屓目で見ても、こんないい女は他にいないと思うぜ?」
「お世辞はいい」
「いや、お前はホントにいい女だよ……なんだかんだで最後まで付き合ってくれたり、他人のことを一番に考えられたり、な」

新入隊員の間ではセクシーだと話題になる、男らしい笑み。
蒼い瞳が私を見つめる。

「秀次だって、そう思ってんじゃねーの?」
「……でも、告白したら今の関係が崩れる気がする」
「あー……それなら、お前のペースで進むのがいいか」

ぽん、と頭を軽く叩かれた。

「まぁ、おれは応援してるからさ」
「……うん、ありがと」

ぎゅっと迅の手を握る。
迅は、優しい微笑みを浮かべていた。

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