《MUMEI》
1日目−空港
 私は空港で人探しをしていた。相手は、ねこの写真が白黒でプリントされたTシャツに黒いパンツで、黒いトランクを持った男性だ。だが、このなれないひとごみ。全くそれらしい人が見当たらない。
 それに、朝はかなり早起きしなければならなかった。とにかくつらい。私はこの待ち合わせ場所の空港の県外、それもかなり離れたところに住んでいる。朝は五時起きで、六時頃に家を出た。今は夏だから少し明るくて、真っ暗よりはテンションが下がらずに済んだが、やっぱりしんどいことには変わりない。親が車で駅まで送ってくれたけど、やっぱり眠そうな目をしていた。
 そこから新幹線に四時間揺られ、バスや電車に乗り、12時過ぎにここに着いたのだった。一時に昼ご飯は食べずに集合ということだったので、まだ時間がある。
 1時間、長いかと思ったら意外とそうでもない。さすがにお腹がすいたので軽くコンビニのゼリーを食べ、空港周辺をカメラで撮った。ここは本当の旅行の中継点でしかないが、それでも滅多に来れる場所でもない。気に入ったものや、ここに来た証拠は残しておきたかった。そうこうするうちにあっという間に経ってしまった。もう、10分前だ。
 空港の国際線入口のあたりの少し開けたところにきた。LINEで送られてきた言葉通りの恰好の服装の人の姿を探す。ねこの白黒写真のTシャツ、黒いズボン……。あの人かなその人かな、と見渡してみるが、それらしい人たちは私に気づく様子もなく飛行機の待合場へ向かっていく。
 時計を見ると、とうに1時を回っていた。
 話しかけて違ったら怖いし、見つけてくれないかなぁ。私の服装も、スマホで撮って教えてある。気づいてくれたらいいのに。
 ピロン。
 ふと、スマホが鳴った。見ると、LINEの新着メッセージだ。グループ「NY」からだ。
 『もしかして迷ってる?今、どこ?』
 とのことだ。読み終わってすぐ、電話が掛かってきた。
「もしもし」
「大丈夫?もう10分くらい経つのに、会えないから……。どこ?」
 少し焦っているような声だった。私からしたら毎日顔を見ているような相手だが、相手からしたら私はほぼ他人だ。焦るのはあたりまえかもしれないが、心配している様子の声がうれしかった。
「国際線入口のちょっと開けたところにはいるんですが……」
「ああ、じゃあ近くにはいるんだね。えっと、服が白いTシャツにサボテン柄のサロペットっていうのかな?ワンピース。それで、麦わら帽子。分かった。ちょっと待ってて、探す」
 荷物を置いたような音が聞こえ、あとはスマホからは周りのちょっとした雑音が流れていた。切られるかと思ったけど、こっちのほうがまた電話するときにしやすいし、そのままにしておいた。
 私はスマホから目を逸らし、まわりを見渡した。本当に会えるのか不安だし、自分がただ待つことしかできないのが申し訳なかった。下手に動いたらいけないのはわかっているが、せめて見える範囲で探したい。
 ふと1人、それっぽい人がいるのを見つけた。マンチカンの白黒写真のTシャツで黒いズボンだ。手にもっているのも、黒いトランク。あの人だ。あの人に違いない。
 私はトランクを引きずって彼に近づいた。彼はせわしなく時計とあたりを見比べている。すぐ近くまで歩いていく。彼も私に気づいたようで、目が合った。
「あ」
 あの、といいかけて、止める。
 彼は迷惑そうに目を逸らし、背を向けた。
 え、なんで?と思ったけど、思ったけど、問うまでもない。顔の形も私が知っているものと違う。別の人だったのだ。
 さっきの迷惑そうな目を思い出し、怖くて恥ずかしくて、どうしようもなくなった。
 せめてまわりに迷惑をかけないように、これ以上恥をかかないように壁によりかかる。通話が繋がったままのスマホを見ると、1時22分だった。もう約束の時間をかなりオーバーしてしまっている。ぽつん、と画面にしずくが垂れた。
 心細い。待っているだけなのがつらい。探しにいきたい。迷惑をかけるのはわかるからしないけど、なにかしたいのに……。
「[私]さん!」
 はっとして、声が聞こえたほうを見る。そして、姿が見えた。

 

前へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫